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第606話

……俺は、神でも仏でもねぇーんだけど。 勝手に通話を終わらせた弘樹のテンションが、元通りになっていたから良しとしよう。 可愛い仔猫は腹を空かせ、俺の指に噛みついたまま小さく唸っていて。弘樹の話を聞き終わった俺は、なんだかんだ星とイチャつきつつ、夕飯を作り二人で食事を済ませた。 その後はいつも通りに家事を二人で分担し、星が洗い物をして、俺が風呂入れたりして。とにかくお互いの傍にいたい俺たちは、食事も一緒、風呂も一緒だから。 照れながらも嬉しそうに泡風呂に浸かる星を眺め、俺は今日も小さな幸せを感じていた。 「西野君は、弘樹のことが本当に大好きなんだと思います。毎日弘樹のために、手作りのお弁当持ってきてたりするし、弘樹は尽くされてるなってオレは思うんです」 そう俺に話す星は、きゅっと目を瞑り大人しく俺にシャンプーされている。俺も星くんに尽くされてんなって思ったりするけれど、西野の野郎はそれ以上に弘樹を溺愛しているらしい。 「あのバカ犬のどこがいいんだろうな、俺にはよく分かんねぇーわ」 「弘樹は誰にでも優しいし、裏表もないし……意外にリーダー性があったり、勉強はできないけどサッカーにはすっごく真剣だったりとか。あとは笑顔が爽やかだったり、弘樹は昔から色んな人に好かれるタイプですよ?」 愛嬌だけで生きているような弘樹だが、その愛嬌こそが最大の武器なのだろう。馬鹿正直で、単純。それに付け加えて人懐っこい性格は、男女問わず好かれやすくはあるんだろうけれど。 「まぁ、構ってやりたくなるタイプではあるかもな。部活の先輩にも可愛がられてきてるだろうし、アイツはバカでも生きていける」 「雪夜さんも、弘樹には甘いですしね。弘樹も雪夜さんに憧れてますし、オレとしてはとっても嬉しいんです。西野君は裏表がはっきりしてるから、裏の顔を知ったことで付き合いやすくなりました」 星が話してくれる内容に、俺は安堵する。 俺と会えない間、星を助けてくれるヤツはちゃんと側にいてくれるだろうと思ったから。ただ、そのことが少しだけ寂しく思えるのは、俺の心が狭い証拠だと思った。 成長していく星を見守り続けるのは、愛しさが増していく一方で、その分小さな嫉妬も積み重なっていく。俺も少しは大人になったつもりでいたけれど……こんなことで妬くなんて、俺はまだガキだなと思いつつ、星の髪に纏わりついた泡をシャワーを流していった。 「……お前、やっぱ可愛いな」 濡れきった髪を整えやり、振り返った星を見て俺がボソリと呟くと、星は頬を染め俯いてしまう。 外見の良さだけに、惹かれたワケじゃないが。 星の可愛さは、内面から現れる素直さと純粋さが合わさった飾り気のないもので。出逢った頃より背も伸びたし、すっかり大人の身体つきになってきたのに……それでも愛らしさを残して成長していく仔猫に、俺は心惹かれていくばかりだった。

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