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第607話
星の傍にいてやりたい。
けれど、俺にはやらなきゃならないことがあるから。
竜崎さんと約束した1週間後。
俺は、研修に参加する旨を竜崎さんに伝えた。しかしながら、海外へ行くと決めたのはいいものの、俺には休む暇もなくて。
大学には申請書類を多数提出したり、ショップのバイト先には事情を説明して5月末で辞める手続きを踏んだり。恋人でもなんでもない康介に、海外研修の話をしたら泣き出した康介に構ってやったり。
慌ただしく過ぎていく毎日の中で、唯一の癒しは星からのLINEだったりするけれど。これも国外だと時差が発生するため、すぐに連絡が取れなくなることを寂しく思ってしまう俺がいる。
「ユキちゃんとさよならするって、せいから言い出すとは思わなかった。半年って長いよ、ユキ、お前そのうち死ぬんじゃない?」
「確かに、星君よりも雪夜の方が寂しくて死ぬ可能性は高いだろうな。今でも既に、寂しいと顔に書いてあるようなものだから」
「お前ら、俺を殺してどうしてぇーんだよ。星が待っててくれんだから、死ぬコトなく帰ってくるっての」
6月からの半年間、俺が日本からいなくなると星から話を聞いた光から、送別会をしてあげると俺のところに連絡がきたのは数日前のこと。
光も優も、それぞれ忙しい時間を割いてくれたのはいいが。送別会なんてものじゃなく、酒が飲みたいだけの俺たち三人がやってきたのはランの店だった。
「星ちゃんは誰よりも雪夜のことを理解して、離れる選択をしてくれたのよ。本当にいい子に巡り会えて良かったわね、雪夜」
「それな、俺が今こうしていられんのは全部アイツのおかげだ」
カウンター越しで微笑むランは、星と同等に俺のことを理解している生き物だ。月日が流れても見た目はさほど変わることがないオカマは、キレイなだけで妖怪のようだと思った。
「ユキちゃん、俺にもお礼言ってよね。せいをあそこまで育てたのは俺なんだし、俺がいなかったからユキはせいと出逢ってなかったかもしれないんだから……ねぇ、ランちゃんもそう思うでしょ?」
カウンターに肘をつき、流し目でランを見る光。その隣で、今日も王子の命令に従い酒が飲めない執事が光の肩を抱く。
「そうかもしれないわね、人と人との出逢ってのは不思議なものなのよ。光ちゃんも優くんも、雪夜も星ちゃんも……私は、貴方たちに出逢えたことに感謝するわ」
光の意見をさり気なく肯定し、優しく微笑んだランに、悪魔二人からも自然と笑みがこぼれていく。
半年の間に俺が会えないヤツは星だけじゃないということに、俺は今更ながらに気づかされる。だからといってコイツらに会えなくなるのは、別に問題ないと俺は思っていたんだが。
「ユキちゃんがいなくなったら、俺がせいを慰めてあげなきゃ。ユキ、あの子ってひとりえっちできるの?」
そう俺に訊いてきた光の一言で、俺の不安は一気に膨らんでいった。
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