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第610話

「星ちゃんも心配だけど、光ちゃんが心配ね」 悪魔二人とは、店で解散して。 店内に一人残り酒を飲む俺に、ランはそう呟いた。 ここ最近、王子様の笑顔がぎこちないことには俺も気づいていた。ただ、俺が口を出す問題ではないと思い、俺は光にいつも通りの接し方しかしなかったが。 「たぶんアイツら、この1年が最後だと思ってんだ。理由は分かんねぇーけど、王子と執事は俺と星とはちげぇーんだよ」 ロックグラスの中にキレイに収まっている氷を眺め、カウンターに頬杖をついた俺はランにそう告げた。 星には伝えていない、光と優の未来。 俺の憶測に過ぎないが、あの二人は別れる選択をしているに違いないと思う。 お遊びは終わりだと、今のままじゃいられないと。詳しいことは何も言わずに、俺にそう話した時の光の表情が脳裏に過ぎる。 この先の将来、お互いの思い出になればいい。 いつだったか、優もそんなことを言っていた……あの時感じた儚さが、今日の二人を包んでいたんだ。 確信は持てないが、前から薄々勘づいていたこと。繋がれた手が離れてしまうのは、きっと時間の問題だろう。光と優は大学卒業後、互いを思い出に変えて生きていく覚悟をしている気がしてならない。 「あの二人は俺と星より、依存性が高い。どちらが欠けても、ダメなんじゃねぇーかって思う……でも、アイツら肝心なコト言わねぇーんだよ。そこに俺が首突っ込むのはちげぇーし、無理に勘ぐろうとも思わねぇーし」 友人としての立場を守り、互いに深入りしないことを俺は優先してきたけれど。このまま黙って二人の別れを眺めてやれるほど、俺は大人じゃない。 アイツらの触れ合った指先は、絡まっているくらいがちょうどいい。 光を支えてやれるのは、優のみなのだから。 妖艶な王子様を自ら繕う頭のおかしい光だが、その笑顔の裏にある本心は優にしか見せることがないのだろう。弟の星でさえ、光の心の内は分からないと洩らしているくらいだ。 「本当はお店のマスターとして、お客様の情報は流さずにおきたかったわ……でも、光ちゃんのあんな辛そうな表情見ちゃったら、私も黙っていられない」 かなり意味深な、ランの言葉。 そこに含まれる秘密厳守の意図を受け取り、俺はランの話を聞く。 「あのね、雪夜。光ちゃんと優くん、この間お店に来てくれたのよ。俺が祝える、最後の誕生日だからって……光ちゃんの誕生日に、優くんがこのお店を選んでくれたの」 「じゃあ、アイツらやっぱり……」 「二人が何を考えて、別れを選択しようとしているのか私には分からないわ。だけどね、本当にそれでいいのかどうか、光ちゃんと優くんにはもう一度よく考えてほしいと思ったのよ」 「そんで、星をお前に任せてほしいっつったのか。光の気持ちを少しでも軽くしてやるために……俺がもっと頼れるヤツなら、アイツらも悩まずに済んだのかもしんねぇーのに。俺は自分が不甲斐ねぇーよ、ラン」

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