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第611話
「光ちゃんも優くんも、充分貴方に頼っているはずよ。自分たちの関係を認めてくれる唯一の存在……星ちゃんの想い人で、どれだけ揶揄っても自分たちの関係を見守って付き合ってくれる、そんな雪夜にね」
溜め息を吐いた俺に、ランは笑顔で応えてくれる。
高校の同級生、好きな時に好きなように俺をこき使って楽しげに笑う二人。それでも、友人としての関係が切れないのは、どこかで大切にしているものがあるんだと思う。
腐れ縁だと感じていた悪魔二人の存在が、こんなにも大きく思える日がくるなんて。今まではアイツらのためだと思い、付き合い方に口を出すことはしなかったけれど。
光は俺にとって、もうただの友人じゃねぇーんだと。今日の光の姿を見て、俺はそう思い知った。ランに頭を下げた時の、星の兄貴としての光の対応。
その光を支える優も、なくてはならない存在なのだけれど……理由は分からないが、どう考えても遊びの付き合いなんかじゃないあの二人が、別れを選択するのは違う気がする。
こんな俺でもそう思うのだから、真っ直ぐな気持ちの星がこのことに気づいたら、尚更納得なんて出来ないだろうと思う。
光は、アイツは星の兄貴だ。
これから先、俺はアイツらと切っても切れない関係になっていく。俺は星と別れる気なんか一切ないし、何らかの形で、ソレを証明したいとも思っているから。
それに、俺が星と一緒にいられるのは、間違いなく光のおかげで。星の泊まりの許可を得ているのだって、アイツが上手いことしてくれているから可能になっていることだ。
本来なら俺がすべきことを、光は星のためだと言って引き受けてくれている。今はまだ、俺がその恩をアイツに返すことはできねぇーけど。
ランに言われた俺がすべきことは、単に夢を追いかけてくることだけじゃねぇーんだと実感した。
「星ちゃんのお兄ちゃんとして、光ちゃんは頑張り過ぎてるわ。いくらブラコンだからって、自分を犠牲にしてまで星ちゃんを守ろうとするかしら?」
光の異常な過保護さに、ランも違和感を覚えている。付き合いが長くなればなる程、その謎は大きくなるばかりだった。
「そこなんだよな……どんな訳があるのか分かんねぇーけど、光は何かしら俺らに言えねぇーことを隠してる気がすんだよ。それを分かってんのは、優だけだ」
光の意見を尊重している優は、きっと何も言わないだろうけれど。なんとなく、アイツらの関係には星の存在が大きく関わっているような気がしてならない。
俺の考えに、おそらくランも同意なのだろう。そうでなきゃ、客として訪れた二人の話を、このオカマが俺にすることは有り得ないから。
「半年後、雪夜が帰ってきた時が勝負ね。その頃には、貴方と星ちゃんの関係も落ち着いているでしょうし……星ちゃんのために、雪夜が最善だと思える選択をしてあげてほしいわ」
卒業までには、まだ時間がある。
それまでに王子と執事の考えが変わることを、俺は願うのみだった。
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