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第617話
オレが弘樹に押さえつけられた後。
泣き崩れるオレを宥めながら、弘樹がスマホで話していた相手は雪夜さんだった。
弘樹が自ら殴ってくれと雪夜さんに連絡をし、通話が終わった後、LINEで雪夜さんにオレ達の居場所と簡単な事情を説明して。
雪夜さんなら、弘樹を全力で殴るようなことはしないって弘樹の勝手な判断から、半分本気で半分演技の二人を、オレは目の前で見る羽目になったんだ。
弘樹から連絡を受けた雪夜さんも、弘樹には何か意図があるんじゃないかと、弘樹の気持ちを精一杯汲んでくれた上での行動だったみたいで。
オレは弘樹と雪夜さんの説明を聞いているうちに、二人の信頼性を強く感じることとなった。
たくさん涙が流れて、腫れた瞼は重いけれど。
泣いて泣いて泣き止んだ時、オレはやっと笑顔になれて。雪夜さんの腕の中にすっぽり埋まっていたオレは、小さく顔を上げた。
「星、愛してる」
「雪夜さん……」
弘樹の前なのに、雪夜さんはオレのおでこに優しいキスを落とす。恥ずかしいけれど嬉しくて、オレが照れ混じりに微笑むと、オレと雪夜さんを見ていた弘樹は片手で目頭を押さえて呟いた。
「なんつーか、今度は俺が泣きそうっス。セイも白石さんも、ホント俺……っ、大好きだから」
もしかしたら、今一番ホッとしているのは弘樹なのかもしれない。オレと雪夜さんを信じてくれて、あんな行動を取った弘樹。
でも、もしもこれでオレ達の関係性が変わってしまったら。オレが、弘樹や雪夜さんを拒絶してしまったら……そんな大きな不安を隠して、弘樹はオレと雪夜さんのために、ここまで身を挺してくれたんだと思った。
……思ったんだけれど。
「いやぁー、でも白石さんって、ガチでキレるとマジでこぇーっスわ。あの威圧感と雰囲気を一瞬で出せるってことは、この人絶対元ヤン……ってぇ!!」
しんみりした空気に包まれたくなかったのか、弘樹は自分で話題を変えてしまった。ただ、それが幸か不幸かは別として……ね。
弘樹を黙らせるために、雪夜さんが軽く蹴り上げた弘樹のお尻。弘樹は痛いと言いつつも、ニヤニヤ怪しい笑みを浮かべて雪夜さんを見つめていて。
「余計なコトを星に吹き込むんじゃねぇーよ、俺はヤンキーしてきた覚えねぇーんだけど」
「え、違うんっスか?俺、あの殺気だけでこのまま死ぬんじゃないかと思ったくらいなのに」
……ヤンキーというより、この人は一匹狼タイプだと思う。
なんて。
心の声は閉まったまま、オレは雪夜さんの腕の中で二人の会話を聞いている。
「んなワケあるかよ……マジなら最初から、星の目の前で手なんて出さねぇーしな」
「いや、でも相当喧嘩慣れしてねぇとあんな殺気出ないっスよ。さっきまでの白石さん、ガラ悪すぎっス」
「うっせぇーな。お前が望んだガチでキレた感じを実際にやったら、もっと酷いコトになってっから大丈夫だ」
全然大丈夫じゃないし、物凄く危ないことを言っているオレの恋人だけれど。オレが大好きな雪夜さんは、とても優しく柔らかな表情で微笑んでいたんだ。
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