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第621話
星が眠っている間に、弘樹の思いつきで決めた1on1の勝負。お互いサッカー経験はあるが、俺も弘樹も相手の実力をまだ知らないからと、此処に着いたらやり合うことを約束していた俺と弘樹。
こんなことならもっと動ける格好してくりゃよかったと思いつつ、俺は康介との練習用で使っているトレシューを車内から取り出し履き替えた。
そんな俺の横で、俺の服の裾を無意識に引っ張っている星くんは、俺の服を確実に伸ばして車の影に隠れてしまう。やる気満々の弘樹は、普段部活で使用してるユニに着替え始めていて、俺と星の動きは眼中に無いっぽいけれど。
「……ぎゅって、して」
弘樹からの死角に入り込み、俺を見上げて呟いた星はいつもよりずっと大胆で。心細くて甘え足りないのか、シュンとしている星くんからの可愛いお強請りに、俺は無言で星の唇を奪った。
「んっ…」
ぴくんと小さく反応する身体を、そっと包み込むように抱き締めてやると、星は俺の首に腕を回して抱き着いてくる。
「雪夜さん、好き……大好き」
精一杯背伸びをして、俺の耳元でそう囁く星くん。俺が多くを語らずとも、俺にとって此処がどんな場所なのか、星は理解したのだろう。
愛しい仔猫と想いを通じ合わせ、弘樹の準備が整った頃。俺は名残惜しく星から離れ、弘樹とアップがてらパスパスをすることにした。
「ボールは友達っス!」
「ボールは恋人だ、バカ」
「どっちも違うと思うんですけど……弘樹の友達はオレだし、雪夜さんの恋人もオレですよ?」
ベンチに座り微笑む星くんは、首を傾げて不思議そうな顔をする。俺も弘樹もボールを蹴り合いつつ、天然記念物の星には敵わないと思い、二人で苦笑いした。
「ナチュラルに嫉妬されてますけど、白石さん大変っスね……っと、ちょッ!?いきなりループとか勘弁ッ!!」
「反応遅せぇーぞ、弘樹。トラップしっかりしろや、どこに落としてんだよ」
星の言葉に気を取られ、俺からのパスをトラップミスした弘樹。弘樹の足から離れコロコロと転がっていくボールは、星の前でピタリと止まる。
そのボールを両手で拾い上げた星は、そのまま弘樹に話し掛けた。
「雪夜さんと対決するのはいいけど、弘樹たぶん勝てないと思うよ?サッカー詳しくないオレでも、実力の差くらい分かるんだから」
「セイちゃん、毒舌……勝ち目のない試合でも、全力でいくのが俺のモットーだから。勝っても負けても、コレが終わったら、俺から悠希に告白するって決めたんだ……そうっスよね、白石さんっ!」
「らしいぞ、星くん」
「やるって決めたら人の言うこと聞かないもんね、弘樹はさ。好きにすればいいよ、オレがその勝負、ちゃんと見届けてあげるから……ね、雪夜さん?」
……すげぇーな、こっちも対抗意識バチバチじゃねぇーかよ。
やる気満々で笑顔を見せつつ闘志を燃やす弘樹と、そんな弘樹が俺に懐いていることに嫉妬しているらしい星くん。
あからさまに甘え足りていない状態の星をこのまま放置するのは気が引けて、問い掛けてきた二人の元まで俺が行ってやることにした。
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