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第625話
「……え、なんて訊かれたの?」
フリーズ状態からしばらく経って、やっと声を出せたオレは西野君にそう尋ねた。
「青月くんって、絶対彼女いるよね?あんなに可愛い顔してて、実は肉食系だったりするの?って。西野君は青月君と仲いいから、何か知ってるんでしょ?って言われた」
可愛い顔って……オレがクラスメイトから、そんなふうに思われているだけで驚きなのに。首筋にキスマークが付いているってだけで、肉食系になる理由がオレにはさっぱり分からない。
「マジかぁー、セイちゃんプレイボーイじゃんッ!腰庇ってんのも、女の抱き過ぎだとか勘違いされてんだよ。そんで、悠希はなんて返したんだ?」
たくさんのクエスチョンマークを頭の上に並べるオレと、更に話を掘り下げようとする弘樹。弘樹の問いに西野君が返さないはずがないから、オレは黙って西野君の言葉を待った。
「それ知って、ナニになるの?僕ね、友達のそういうの興味無いからって答えたら黙っちゃった。でも青月くんが肉食系なワケないよねぇ、うちのクラスの女子って本当見る目ないクズだなって思った」
大胆に毒舌を披露した西野君は、黒い笑みを浮かべている。オレはそんな西野君がちょっぴり怖くて、でもとても頼もしく感じた。
肉食系なんて、違うと思いたいけれど。
でもオレ、雪夜さんに噛みつくの大好きだし……ある意味、オレも肉食系になるのかな。今日も雪夜さんの身体中に、オレの歯型が残ったままだから。
いてぇーよ、星くんって。
ちょっとだけ眉を寄せて、痛みに耐える雪夜さんの表情が大好きで。その後、必ずオレに微笑んでくれる雪夜さんがもっと好きなんだ。
大きな手で、優しく頭を撫でてくれるから。
オレだけの雪夜さんだって、強く思うことができる瞬間だったりして。
頭の中でそんなことを考えていたオレは、現実に戻ってきて弘樹と西野君に問い掛ける。
「えーっと、あの……オレ、どうしたらいい?」
クラスの女の子達にどう思われているかなんて、まったく知らなかったオレは、この後どんな顔をして教室まで戻ればいいのか分からないんだけれど。
「セイは何も気にせずに、いつも通りにしてればいいと思う。興味本位で聞いたんだろうな、首のソレ……やたらキレイについてるし」
「歳上の美人さんと、付き合ってることにでもしとけばいいんじゃない?青月くん、僕の時もそうしてたし……特に違和感なかったから、大丈夫だと思う」
「歳上美人……すげぇイケメンだけどな、あの人。スパダリハイスペックイケメンとか、普通に考えてヤバいだろ。昨日の白石さんも、クッソかっこよかったし」
「でも、ウソはついてないじゃん?歳上で、料理上手で、独占欲が強くて、やたら整った顔してる、お兄さんかお姉さんかの違いだよ。相手の性別なんて、こっちから言わない限り分かんないんだから気にすることないって」
弘樹も西野君も、雪夜さんのことを知っている分、かなり冷静に対応してくれて。そんな心強いカップルに、オレはとても感謝した。
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