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第634話

あの、その、えっと、んーっと。 星が繰り返す言葉はそんなものばかりで、焦らされる俺の身にもなってほしいと思ったりするけど。それでもやはり星から強請ってもらいたい俺は、赤く染まりつつある星の耳を甘噛みした。 「っ、ん…ぁ、もっと…」 言いたいのに、恥ずかしくて言えない。 何度もシている行為なのに、いつまでも恥を感じてくれる星のその想いを変えてやるため、俺は噛んだ痕を舐め上げ星に問い掛ける。 「もっと、俺にどうされてぇーの?」 「…んぅ、いじわる」 予想通りの受け答えをし、頬を膨らませる星くん。この表情が見たくて、わざとらしく尋ねられていることに、仔猫が気づく日はくるんだろうか。 「星、拗ねてねぇーで教えて。強請り方は知ってんだろ?お前は、俺とどうなりてぇーんだよ?」 悪戯な想いは隠せないし、星の前で隠す必要もない。拗ねた仔猫のご機嫌の取り方も把握している上で、俺にではなく、俺とどうしたいか……そう聞き返してやれば、星はゆっくりと口を開く。 「えっと…オレ、雪夜さんと…」 消えてしまいそうなくらいの、小さな声。 自分に向けられる欲には弱いが、それが俺に向く分には羞恥が薄い星くん。抱き着いていたカラダが離れ、真っ直ぐ俺の目を見て呟く星をあと一歩、俺は誘うように微笑んだ。 「ひとつに、なりたい…です」 「ん、いい子だ」 羞恥に混ざって現れる大胆さや、愛くるしい表情。計算かと訊きたくなるような星くんの行動は、どれも天然モノだから。 「……俺も、お前とひとつになりたい」 俺がそう告げてやると、照れて俯く星は嬉しそうに頬を染めた。気持ちいいことに貪欲な仔猫のカラダは、俺を求めて手を伸ばしてくれる。 「あっち、行く」 そんな星の小さな指が示す場所は、ベッドだ。 ソファーじゃなく、ベッドで抱いてほしいとご希望の仔猫さん。はしたなさを感じさせない意地らしく愛らしいお誘いに、俺の頬は緩んでいくばかりで。 ソファーからベッドまでの距離なんてないに等しく、俺は星を抱き上げそのままベッドに押し倒し、星の唇を奪った。 「んっ、ぁ…」 触れるだけのキスにすら、敏感に反応してくれる星くん。瞳はぎゅっと閉じられていて、長く細い睫毛が揺れる。迷子の両手が辿り着く場所は、星が好きだと言う俺の髪。 「ふぁ…ッ、ん…」 遠慮がちに掴まれた襟足、しかしそれも数秒後にはその手に力が込められていく。ほんの僅かな仕草に愛を感じて、幸せを噛み締めた俺は自分でも気付かぬうちに笑っていたらしい。 「なんで、笑っちゃ…やぁ」 「ムリ、お前すげぇー可愛いし」 感じている姿を笑われるのは恥ずかしいのか、星はイヤイヤと首を振るけれど。 「ん、ちょっ…ぁ、ッ!」 可愛がり倒したいと思う気持ちに、俺は逆らえねぇーから。俺がもう一度星に口付けた後、余裕のなくなった星くんから漏れてくるのは、甘い甘い鳴き声と熱く淫らな吐息だった。

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