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第646話
【雪夜side】
星がいないこの地で、俺が求めるものは一つだ。星と離れてしまったこの選択が、間違いでないことを祈りたい。
行ってらっしゃい、と。
寂しさを堪えて笑顔を見せたくれた星は、今頃何をしているのだろう。独りの夜は、どうしてこうも虚しくなるのだろうか。
……っつっても、正確に言えば独りじゃねぇーんだよな。
最初の研修の地、スペインのバルセロナに来てから1週間。日本を飛び立った日から、俺は四名の研修生と毎日行動を共にしている。
俺を入れ研修生は五名、そして今回ヘッドマスターとして帯同している竜崎さんを合わせ、基本六名で行動するのはいいけれど。
俺が最年少だからなのか、竜崎さんと担当のスクールが一緒だからなのか……都市部のホテルで過ごす時は、ツインの部屋で竜崎さんと二人だ。
他の研修生と同室よりかは、気が楽だと思いたい。他人に興味はないが、他人だからこそ気を遣わなければならない場面もあることを考えると、ある程度の素性を知られている竜崎さんとの生活の方が、俺には合っている気がする。
それでも、星のことは竜崎さんに非公開だから。俺に交際相手がいることは竜崎さんからの不意打ちな質問でバレたけれど、その相手が高校生で同性だとは竜崎さんも思っていないだろう。
何はともあれ、それなりに慣れてきつつある生活。竜崎さんがこの研修はツアー旅行だと言っていた意味を早くも理解し始めている俺は、スタジアムの見学から何から楽しみたい放題で。夢のまた夢だった、欧州最大級のスタジアムに足を踏み入れることもでき、俺はそれなりに今を満喫できている。
ただ、どうしても気になってしまうのが愛する星くんのこと。俺の夢を支えてくれて、そっと背中を押してくれた星は泣いていないだろうか。
襲ってくる睡魔と、疲労感。
ホテルの部屋のシャワーで汗を流し、食事を摂る気にはなれず転がったベッドの上。見上げた天井に手を伸ばしても、掴めるものなど何もなくて。
触れたい相手は、今日も隣にいない。
おかえりなさいと、大きな瞳で俺を見上げて微笑んでくれる可愛いらしい仔猫に会いたい。
どんなに愛しく想っても今は届くことのない愛を、一掃のことここから叫んでやろうかと思う……が、夜中の思考回路がおかしいことくらいガキな俺でも分かるから、そんなことはしないけれど。
ほぼ日本と昼夜が逆転している生活に多少慣れてはきたものの、星に連絡を入れてもなかなか返信が返ってこなかったりして、俺は無駄に心配してしまう。
時差があるのは分かりきっていたんだが、それにしても実際に離れてしまうと心配で仕方がない。過保護なのもよくないのかもしれないが、あんなに可愛い仔猫を独りにしておくのはやはり心苦しいものがある。
「星くん、おやすみ」
竜崎さんに俺がぬいぐるみを持ってきていることがバレぬように、竜崎さんが食事をしに部屋から出ている隙に、俺は手のひらサイズのステラにキスを落としていた。
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