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第653話

【星side】 雪夜さんが、日本から飛び経った日。 オレはちゃんと学校に行って、頭の中は上の空状態で授業を受けた。 雪夜さんがいなくなって、やっと2週間が経ったある日のお昼休み。自分のことを考えなきゃいけないはずなのに、オレは雪夜さんのことばかり考えている。 どちらかから連絡しても、お互いすぐに返信することができないのが心苦しい。離れてしまったら、とっても寂しくなっちゃうんだってオレはずっと思っていたけれど。 本当に、その日が来て以降。 オレの感情は寂しさを通り越し、独りでいたらなんのやる気もおきずに何も手につかない日が続いている。雪夜さんと永遠に会えなくなるわけじゃないのに、オレの心の中にはぽっかり大きな穴が開いたまま。 そんなオレの気持ちを察しているのか、弘樹と西野君はオレから声をかけない限りオレを無理に誘うことはなくて。オレは友人二人の心遣いに感謝しつつ、窓の外を眺めていた。 今日の空は、まだお昼なのに暗い。 雨に濡れたグランドは、いくつもの水溜まりを作り、花壇に植えられた花は、重たげに首を曲げている。 オレの心の中が飛び出てきたような風景に、オレは溜め息を吐くけれど。 「青月……お前最近さ、空ばっか眺めてね?」 「このクソ蒸し暑い時期になっても、雨降ってなきゃ一人で屋上行っちまうもんなぁ、チビちゃん」 誠君と健史君にそう言われたオレは、小さく頷いた。 「うん……なんかね、空なら繋がってるから。だから空を見上げていれば、心の穴も少しは塞がるかなと思ってるの」 二人に意味不明な説明をして、オレはもう一度息を吐く。ここ最近は雨ばかりが降り続き、屋上に出られないオレたち。今のところ無遅刻無欠席を守っている誠君が横島先生と交渉し、特別許可を出してもらって、お昼の時間だけ調理準備室の使用を認めてもらったんだ。 「お前らがいると、暑苦しい」 しかめっ面でそう呟いた横島先生は、一人頭を抱えていた。そんなに広くはない調理準備室に、横島先生と誠君と健史君、そしてオレの四人。備えてあるクーラーは稼働しているものの、外は雨がしとしとと降っていて部屋の中の湿度も高い。 おまけに、男ばかりがここでだらけているのだから、そりゃあ暑苦しくてもしょうがないと思った。 「まーさーとー、期末のテスト問題教えてちょー」 「いくらお前の勤め先が決まっていようが、そんなことをしたら無条件で退学だ、夏目」 三年生になってすぐ、ぶっ殺すと叫んでいた誠君は何処へやら。すっかり横島先生と仲良くなった誠君は、かったるそうに横島先生に質問した後、健史君を見てニヤリと笑う。 「昌人ちげぇよ、俺にじゃなくて……そこのバカに、だ」 「バカはお前だ、マコ。幾ら横島でも、テスト問題なんて俺らに教えるわけねぇだろ」 もうすぐ、期末テスト期間がやってくるというのに。まだ進路だって決まらないオレは、みんなの声を聴きながら、独り静かに暗い空を見上げるしかなかった。

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