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第654話
雨が降ると、いつもより雪夜さんが恋しくなる。それは、オレと雪夜さんの思い出がそうさせるのかもしれない。
オレが、帰らなくていいと雪夜さんを求めた日。夏休み中のドライブデートも、春に行ったお花見の日も……雪夜さんと二人で出かけると、高確率で雨が降る。
スピリチュアルな世界だと、龍神様のご加護がある人は雨に悩まされることが多いらしい。そんな雨男の雪夜さんが傍にいないのに、雨が続く季節は辛い。
「ケンケン、今回の期末は補習だらけになんねぇように、俺とチビちゃんで勉強教えてやるから覚悟しろよな?」
「マコ、勝手に青月まで巻き込むんじゃねぇよ。あーでも、お前に教えられるのはイヤだしなぁ……青月、悪いけどさ、今日の放課後付き合って」
窓の外を眺めるオレの背中に、健史君が話し掛けてくる。頭は上手く働かないけれど、独りでいるより誰かといた方がずっといいと思ったオレは、暗い外の景色から視線を外した。
「今日は何も予定ないから、二人に付き合うね」
オレがそう返すと、健史君と誠君が顔を見合わせ小さく笑う。安堵した様子の二人を見て、やっぱりこの二人は優しい人なんだなって思った。
きっと普段の調子で言い合いながら、二人でだってできるテスト対策の勉強に、オレを誘ってくれたクラスメイト。雪夜さんのことをオレは何も話していないのに、誠君も健史君もオレのことを気遣ってくれているような気がして。
「お前らが青月と一緒にいるのは、かなり不自然な気がしていたが……案外仲良いんだな、お前ら」
受け持ちの生徒三人が話している姿を眺めていた横島先生は、そう言って微笑み嬉しそうな表情をする。
「昌人ってさ、授業中との温度差あり過ぎ」
「それな。マコは横島から吠えられてばっかだし、授業中全く笑わねぇヤツが、ここだと笑うから気持ち悪い」
「そう思うなら、わざわざこんな所に来なくてもいいだろう。教室にもクーラー付いてんだから、教室戻れ」
誠君と健史君から好き放題言われた横島先生は、少し照れ臭そうにそう言って、オレたちを部屋から追い出そうとするけれど。
「昼休み中なら、好きに使って構わないっつったの昌人だろ?大人ならちゃーんと自分の言った言葉に責任持てよな、よこしまちぇんちぇー?」
「マコ、やり過ぎだ」
「ッ、イッてぇなっ!昌人、テメェぶっ殺すぞッ!!」
横島先生を揶揄った誠君は、横島先生にピアスを思い切り引っ張られ、両手で耳を押さえながらドスの効いた声で叫んでいる。健史君はそんな誠君に呆れ返っているようで、小さな溜め息を吐いた後、オレに近寄り小声で囁きかけてきた。
「青月、アイツら一回始まったら長ぇから、マコほっといて教室戻るぞ。今のうちに抜け出さねぇと、とばっちりくらうの俺達だし」
なんだか健史君の言葉に納得してしまい、横島先生と戯れ合っている誠君を部屋に残して、オレは健史君と二人でその場を後にしてしまった。
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