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第659話

まるで。 地球をくるりと一周するように、進んでいく時計の針。雪夜さんの声をもっと聴いていたいけど、そろそろ寝なきゃいけない時間になっちゃうって……12時を示す時計を眺めながら、オレが寂しさを感じた時だった。 『星、18歳の誕生日おめでとう』 とびきり甘い雪夜さんの声で、そう告げられた言葉にオレは目を丸くする。ついでに、部屋のカレンダーに視線を移したオレは、丸くした目で瞬きを繰り返した。 進路のことや、テストのことで頭がいっぱいで、自分の誕生日をすっかり忘れていたなんて、雪夜さんには言えない。 雪夜さんが研修に行ってしまったら、オレの誕生日は雪夜さんと一緒に過ごせないってことは分かっていた。オレが欲しい物は雪夜さんと二人でいられる時間だけど、それを少しのあいだ失っても……オレは、雪夜さんに夢を追いかけてほしいと思うから。 だから、今年のオレの誕生日はなんとなくで過ぎていくだろうと。なんの期待もせず、そうしてオレの頭から完全に消え去っていた誕生日。 けれど。 まさかこんなふうに雪夜さんにおめでとうって言ってもらえるなんて、オレは思っていなくって。 「ありがとうございます、雪夜さん」 嬉しさと切さなで溢れそうになる涙を堪えて、オレは雪夜さんに感謝の気持ちを伝えた。どんなときでも、オレのことを忘れないでほしいって……心の中で願っていたことは、ちゃんと雪夜さんに届いていたんだ。 離れていたって、オレの誕生日を一番にお祝いしてくれた雪夜さん。ビデオ通話に切り替えようと考えたけれど、オレが緊張し過ぎないように通話のみで連絡をくれたこと。通話だけでも、案の定オレは緊張していたから声が聴けただけで嬉しいこと。 兄ちゃんが雪夜さんの煙草を吸ってくれたことや、毎日雪夜さんのジッポを握って眠りに就いていること。些細なことでも雪夜さんと話せることが楽しくて、離れていても繋がってる今が愛おしく思えて。 雪夜さんがオレのことを考えて、こうしてサプライズで連絡をくれたことがオレはなにより嬉しかった。 けれど。 雪夜さんと話していると、あっという間に時間が過ぎていく。声が聴けて嬉しいのに、また離れてしまうことを思うと心苦しくて……急に黙り込んでしまったオレに、雪夜さんはオレがほしい言葉をくれたんだ。 『星くん、愛してる』 「雪夜さん……」 でも、この言葉を雪夜さんがオレに言ってくれるってことは、そろそろさよならの時間で。満たされていく想いとは裏腹に、襲ってくる寂しさに胸が張り裂けそうになる。 きっと。 七夕のお話に出てくる織姫と彦星も、こんな気持ちなんだろうなって考えながら、オレは雪夜さんに大好きですって想いを告げた。 年に一度しか、会えない二人なわけじゃない。 年に一度しかない誕生日に会えなくても、それは今年だけかもしれない。そう思うと、離れ離れの今も素敵な思い出に変わっていくような気がしたんだ。

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