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第668話

【雪side】 久しぶりに聞くことができた、星の声。 誕生日に二人で過ごすことができない代わりに、せめて声だけでもと思ったけれど。 ……あの様子だと、星くん自分の誕生日完全に忘れてたな。 期末テストで頭の中がいっぱいっぽかった星くんが、ちゃんとランの店に行ってくれたことを今の俺は願うしかない。 信用できる相手に頼めるだけのことを頼み、預ける物を全て預けて日本を離れたが……この時計の意味を、ランなら何も言わずとも気づいてくれるだろうか。 そんなことを考え、見つめた腕時計の時刻は夕方の6時。上手くいけば星とお揃いになっているであろうこの時計は、日本時間に合わせたままだ。 ただの時計では、意味がない。 誕生日にはベタ過ぎるプレゼント、それを何故このタイミングで俺が星に贈りたいと思ったのか……勘のいいランなら、アイツならその意味も含めて星に話してくれると思うけれど。 離れていても過ぎる時間は変わることがないし、星が少しでも俺との繋がりを感じられるように。二人一緒の時を生きている、なんて……そんな想いを込めてランに託した星への贈り物は、同じデザインのサイズ違いだ。 俺が帰国したら、星と揃いの時計を見て妖しい笑みを浮かべる王子様が待っているんだろうと思うと、溜め息が漏れる。ランと同じく勘の鋭い光、頭に角を生やした悪魔に揶揄われることは覚悟の上なんだが。 それにしても、ありきたりなプレゼントだったのかもしれないと。愛する星くんの反応が分からない今、俺は独りで悩める狼になるしかなかった。 星と会えなくなって、1ヶ月が過ぎようとしているけれど。 声だけじゃ足りねぇーし、会って触れて抱きしめたいし、キスもしてぇーし、めちゃくちゃにもしたい。 純粋で不純な気持ちを巡らせていけば、俺の頭ん中の星くんが、ぷぅーっと頬を膨らませる。アンタ、昼間から何考えてんですかって……何ってナニしかねぇーだろと思いつつ、もう限界だと実感した。 好きな相手を、思う存分抱いていたい。 今の気分を正直に言うなら、抱くというより犯したい。俺だけを感じて泣きじゃくる星に、そのカラダと心にいくつもの愛を囁いてやりたいと思ってしまう。 夢中になれるものがあっても、ふとした時に襲ってくる性欲の塊。けれどそれは、星にしか向かない特別な欲求だから。 「……あー、ヤりてぇ」 呟いた言葉が星に届かないことに安堵し、それと同時にやってきた虚しさを感じて、俺はホテルのベッドに転がった。 元々は淡白だった頃の自分を思い返すと、自家発電する気も起きず、そもそも独りで抜いたことなんて片手で足りるほどしかしたことがないと、どうでもいいことを考え息を吐く。 柊のクソから昼食に誘われた竜崎さんが部屋にいないことに感謝をしつつ、枕元にいる小さなステラにキスを落としたけれど。 ソレに応えるようにして、ステラの下に転がっていたスマホが鳴った。誰からだろうと思い、ステラに頬を寄せディスプレイを確認した俺は、天然記念物な星くんからのLINE通知に、頭を抱えることとなった。

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