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第669話
雪夜さんがいた。
そのひと言だけ送られてきた星からのLINEは、相変わらずな天然さを発揮している。
何がどうしてどうなったのか、そんなことをすっ飛ばして説明もなく俺がいたと言われても。星くん、これだけじゃ意味分かんねぇーよ……ってか、俺は此処にいんだけど。
そう思い、何処に俺がいたのかと返事を送り返した俺は、星くんからの返信を待った。
日本に俺がいる、なんてことは有り得ないワケで。星自身もその事実が分かっているからこそ、電話を切る時だってすげぇー寂しそうにしていたっていうのに。
数分経って既読がついた星とのトーク画面に新しく表示されたのは、電車の中にいましたとのひと言。
「さすが星くん、さっぱり分かんねぇーわ」
思わず声を出してそう言った俺は、電車の中に俺がいたという、信じ難い星の言葉に苦笑いする。時々、非現実的なことを話出す俺の恋人は、少し……いや、かなり頭がファンタジーだ。
ぬいぐるみと会話してみたり、そうかと思えば童話の世界に飛び込んでみたり。俺が日本を経つ前だって、雪夜さんは狼さんみたいだから、悪いことをしたらお腹を大きなハサミで切り開かれて、石を詰められちゃいますからねって。
笑いながら俺に言ってきた星くんは、幼い純粋な心のまま育ってしまった男の子のようで。それでも、そんなところも愛おしいと感じてしまうのは、惚れた者の弱みなのかもしれない。
あの時は星が思う悪いことを考え、もしも浮気とかそういったことを俺がしたら殺す……と、星くんの言葉を脳内で俺が勝手に変換して納得したけれど。
今はそういうわけにもいかず、俺は星にいくつかの質問を投げ掛けるLINEを送った。
そして、再び返事を待つ間に、俺はあることを思い出す。俺の頬に触れるステラを見つけた時、俺も似たような感覚に襲われたことがあったっけと思った。星がいる、そう思った黒猫のぬいぐるみが、今じゃ星くんの代わりに俺の傍にいるのだから。
だからきっと、星は俺と似た何かを発見したんだろうと、俺は予想することにして。誰か、かも知れないが、もし俺と似た人物を偶然目撃することがあるとすれば、それは恐らく兄貴の飛鳥だろうと考えてみたりした。
けれど、自分と似たような容姿の人間はこの世界に三人いるという話もあるし、ドッペルゲンガーとか、すげぇーファンタジーの世界に自分も足を踏み入れそうになる。
あまりにも星が心配で、俺は無意識のうちに生霊でも飛ばしているんじゃないかとか。無駄にスピリチュアルな分野へも進みそうになり、苦笑いが洩れた。
バカらしいと思う反面、星の愛らしさに魅かれて俺の脳内はお花畑化している。しかし、それが心地よく思えてくるのだから、星くんマジックは離れていても効果絶大だと思った。
俺はすっかり、星くんの和やかな癒しの雰囲気に呑まれているらしい。さっきまで悶々としていた不純な気持ちが、今は何故だか薄れているのだから。
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