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第670話
何度かLINEでやり取りを繰り返し、今日の星くんの行動が把握出来た俺はひと安心した。ランから時計も受け取ったようだし、文面からだけでも伝わってくる星くんの幸せオーラに大きな愛を感じる。
腕時計とても気に入りました、と。
俺とペアウォッチだということも、プレゼントに込められた意味も。ランがしっかりと役目を果たしてくれたおかげで、星にきちんと俺の想いが届いたようで本当に何よりだと思った。
やっぱり傍にいてやりたいと、今は叶わぬ願いを胸に秘めつつ、星が電車の中で目撃した人物は飛鳥で間違いないんじゃないかと俺は考察する。
ランの店から星が帰宅する電車なら、兄貴が乗っていてもおかしくはない。ただ、普段は車で移動することが多い飛鳥が、何故わざわざ帰宅ラッシュ時間に電車なんかに乗っていたのかは謎だ。
まぁ、でも。
あの俺様兄貴を星は見かけただけのようだし、兄貴は兄貴で星のことを全く知らないのだから、俺が心配するほどのことでもないはずだ。
赤の他人同士であれば、接点なくすれ違って終わるわけで。星は男だし、兄貴が構うのは女だけのハズ……だと、俺は思いたい。
それにしても、俺は日本にいねぇーんだと……お互いの距離を感じてしまって溜め息が漏れた。
こっちが昼で、向こうが夕方。
星とリアルタイムで連絡を取り合える時間は、このタイミングくらいしかない。昨日は珍しく、星くんが日付けが変わる前まで起きててくれていたから通話できたものの。
約半日ズレている時差と、全く違う環境と。
会えない日々を嘆くだけしかないこの状態が、あと5ヵ月続くなんて……研修というより、これはもはや修行だ。
欲の善悪を考える日が来るなんて思ってもみなかったが、これも大事な経験なのだろう。
今日は夕方からミーティングがあるし、こうやって俺がダラダラしていられるのも今のうちだけで。そろそろ竜崎さんも昼食を済ませて帰ってくる時間だと思い、俺はステラをバッグの中にしまった。
見られて困る物ではないけれど、見られたらそれなりに恥ずい物。星くんがぬいぐるみを持っていても、なんの違和感もないのに……俺が持っていたらさすがにアウトな気がして、同室の竜崎さんに見つからぬようステラを構う日々が続いている。
どちらかというと、俺がステラに構ってもらっていると言った方が適切なのかもしれない。柊のクソから、毎日のように受けている嫌がらせ……団体行動の時以外は、必ず俺をぼっちにさせるのが柊の楽しみらしい。
慣れない海外生活で、独りぼっちは寂しいだろうと。俺と顔を合わせる度に、周りには聞こえないくらいの声でそう言って笑う柊がとてつもなくウザい。ついでに言うとキモいし、お前が思っているほど俺はダメージ受けてねぇーよっと思うんだが。
俺が寂しく感じてしまうのは、ぼっちだからじゃなく、星が傍にいないからで。そこんとこを勘違いしている様子の柊は、日に日に俺がやる気を削がれている姿を眺めてご満悦のようだった。
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