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第677話

これで少しは、真面に兄貴と話ができる。 そう思った俺の耳に入ってきたのは、煙草を吸う動作音と飛鳥の呼吸音だった。 『あー、寝起き最悪……やっぱ甘ったるいセックスなんてするもんじゃねぇな、勘違い女はタチ悪ぃわ』 それは、相手を勘違いさせる兄貴が悪い。 そう心の中で呟き、俺は飛鳥の意識をクソアマではなく竜崎さんに向けるよう促すため口を開く。 「兄貴、いつまで遊び歩いてるつもりでいんだよ……竜崎さん、兄貴のセフレ事情よく知ってんぞ。俺を抱きに来る時は、必ず女抱いてから来るくせにって……なんで兄貴じゃない俺が、竜崎さんからそんなコト言われなきゃなんねぇーの?」 酔っ払い上司の呟きが、全て嘘であってほしいと願ってしまいたくなるほどに。竜崎さんから切実な告白を受けた俺は、飛鳥への届かない想いを抱えた不憫な上司に同情してしまうけれど。 『やーちゃん、俺に姿形そっくりだからしょうがねぇだろ。隼ちゃんは酔ったら意識吹っ飛ぶヤツだし、お前に言ったことも自分がしてたことも、明日起きたら全く覚えてねぇから安心しろ』 「そういう問題じゃねぇーんだけど、遊び相手ならいくらでもいんだろーが。よりによって、なんで男の竜崎さんに手出しやがったんだ、変態」 女ならいいのかと聞かれたら、それはそれで違う気がしなくもないけれど。抱ければ誰でもいいのなら、何故竜崎さんだったんだろうと俺は疑問に思うしかなかったが。 『やーちゃんさ、お前も勘違いしてっから。初めてバーで会った時、抱いてくれって懇願してきたのは隼の方だぜ?』 ……まさかの、まさかだった。 たぶん今の俺は、鳩が豆鉄砲食らったような間抜けな顔をしているに違いない。 真面目な竜崎さんが、飛鳥に抱かれることを懇願するって……どんな日本語だ、おい。 出逢い方から、現在に至るまで。 俺にはさっぱり理解できないことが、兄貴と竜崎さんの間で起こっていた事実に、驚くなという方が無理な話だ。 『それに、俺はアイツを抱く前にちゃんと隼に言ったハズだ』 「言ったって、ナニをだよ?」 『ご忠告事項を、色々と……まぁ、あの時隼ちゃんすげぇ酔ってたから、覚えてねぇだろうけどな』 あー、相変わらずこのクソ野郎が吐かすコトは意味分かんねぇーわ。竜崎さん、よくこんな男に惚れたな……ってか、こんなクズと俺を間違えねぇーでほしかった。容姿が似てるだけで、俺はここまでクソでもクズでもねぇーんだけど。 そんな様々な想いを口には出さず、俺は煙草の煙を吐き出していくが。 『やーちゃんは、何も知らねぇフリしときゃいい。隼の躾けは俺がすっから、お前は愛する子猫ちゃんのコトだけ考えときゃいいんだよ』 「言われなくても、そうすっけど……ってか兄貴、兄貴が躾けるっつーなんてさ、ソレ、ガチでマジなやつじゃねぇーのか?」 『誰も隼がセフレの一人だなんて言ってねぇだろ、やーちゃん?』 飛鳥のそのひと言で、二発目の豆鉄砲が見事にクリーンヒットした。

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