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第680話
真夜中に起きていれば、それなりに良いこともある。兄貴に連絡した時は早朝だった日本時間、それもゆったりと過ぎていき、寝起きの星くんからLINEが届く時間になっていた。
おはようございます、と。
毎朝必ず連絡をくれる星は、今日も変わらない時間に目覚めたらしい。星が起きる時間は、俺が寝ている時間……いつもならそうだけれど、今日は違うから。
俺は一度戻ってきたホテルの部屋から抜け出すと、昼間とは違いすっかり人気のなくなったロビーへ移動する。
せっかくだから、チョットだけ。
俺は愛する星の声が聴きたくて、手に持ったスマホを操作すると迷わず通話ボタンをタップした。
『えっ!あの、あれっ!?』
スマホの画面に映るのは、寝起き姿でアタフタしてる星くん。久しぶりに見ることが出来た、リアルタイムで動いてる星の姿だ。
「はよ、星くん」
『雪夜さん……』
「寝癖ひでぇーな、お前」
なんとも愛らしい表情で、緊張しつつも頬を染める星を、俺は画面越しで見つめる。少しだけ、少しだけなら顔を見て通話でもいいだろうと思い、俺からかけた通話に星は驚きながらも出てくれた様子だった。
『あの、本物の雪夜さんが映ってます!あ、これ、すごいです!雪夜さんがいます、雪夜さんですよ?』
「そりゃ俺がかけてんだから、俺しか映んねぇーのは当然だろ。お前は18になっても可愛いコト吐かすのな、相変わらずでホッとしたわ」
『だって、だって雪夜さんがいるんですもん。やっぱりいつ見てもカッコイイ……あ、今のは忘れてください。えっと、おはようございます』
色んなことを呟く星は、ポロリと本音を零して画面越しでペコリとお辞儀をしているようだが。頭と一緒にスマホを持っている手も動かしているんだろう、俺から見えているのは星の顔ではなく旋毛だ。
星くんの安定の天然記念物ぶりに、俺は肩を震わせ笑ってしまう。百聞は一見に如かずと、昔の人は上手いこと言ったものだ。どれだけ文字で元気だと告げられても、実際にこうして顔を見てしまえば、そのことが一瞬で分かるのだから。
「星くん、好き」
やっぱり、俺にはコイツしかいないと。
何度思っても毎回思ってしまい、その度に好きだと伝えて愛を囁いてしまうけれど。俺が好きだと呟けば、オウム返しのように答えてくれる星がいる。
『オレも、雪夜さんが大好きです……あ、でも雪夜さん寝なくて大丈夫なんですか?そっち、夜中ですよね?』
「あー、まぁ、そうだけど。眠れねぇーからお前に連絡したんだよ、どうしても今、お前の声が聴きたくて……ダメだった?」
俺の問いかけに、首を大きく横に振った星くん。どれだけ成長しても、仔猫のような愛らしい仕草は変わらないままで。声を聴いて、その姿を見て……触れることのできない現実を己自身で突き付けた俺は、目を細めて笑ってやることしかできなかった。
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