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第681話

『雪夜さん、ちゃんとご飯食べてください……あと、やっぱりしっかり睡眠は取らなきゃだめです。それと、頑張り過ぎちゃだめなのと……それから、えっと、そのっ』 「星、ありがとう」 星の言葉を遮って、俺から伝えた感謝の言葉。 傍にいてやることができないのに、寂しいとも会いたいとも口には出さず、俺の心配をしてくれる星くんは本当によく出来た恋人だと思う。支えてやりたいと思っているのに、支えられているのはいつだって俺の方だ。 海外のホテルに缶詰め状態なこと、柊のクソ野郎からかなり低レベルな嫌がらせを受けていること、酔っ払い上司が飛鳥のお気に入りと判明したこと……そのどれもが疲労に繋がり、今の俺がいる。 海外生活に、慣れてはきたものの。 食事は抜くことが多いし、質のいい睡眠はとれていない。星が送り出してくれたのだから、頑張るのは当然のことなのだが。 星に全てを言い当てられているような気がして、俺より俺のことを理解している星に頭が上がらない。 隠しきれない疲労感。 それを星の前ではなるべく見せたくはないが、今の俺にはそんな余裕すらなくて。何か言いたげに俺を見つめる星の姿を、ただぼんやりと眺めてしまうけれど。 カシャッと音を立てたスマホは、俺の物からではなく星の物で。嬉しそうに一人で微笑んでいる星くんに、俺はあることを確認する。 「お前、今なんで写真撮った?」 『えっ!?あ、スクリーンショットってそっちにも分かっちゃうんですか?』 「カシャッつったぞ、思いっきり音響いてたわ。設定弄ってなきゃ、スクショも出来るし音もバレんだよ」 『えへへ、バレちゃいました。子犬さんっぽい雪夜さんを、どうしても写真に収めておきたくて……雪夜さん、かなりお疲れなんじゃないですか?甘えたそうな表情してて、とっても可愛かったので、つい』 「星くんに写真撮られるくらい、別にどってことねぇーからいいけどよ。せめて撮る前になんか言え、悪戯っ子にも程があんだろ……っと」 『あっ!!今カシャッて言いましたよ!?カシャッって!もう、勝手に撮らないでくださいよぉー』 俺は、やられたらやり返す主義なんで。 そう心の中で呟き、幸せそうに笑う星の姿を平然とした顔でスクショした俺はニヤリと笑ってみせる。ぷーっと頬を膨らませる表情も、こうしてくだらないことで笑えることも。その全てが愛おしく感じ、伝えたい言葉は一つだと思った。 「星くん、すげぇー愛してる」 『それ反則じゃないですか?このタイミングでそんなこと言われたら、怒るに怒れないです』 「んなもんしょうがねぇーだろ。愛してるヤツに愛してるっつって何がわりぃーんだ、バーカ」 『バカは雪夜さんです。いいですか、今からオレが言うことちゃんと聞いて実行してください。おバカな雪夜さんには、拒否権なんてあげませんから』 クスクス笑い、そう言う星の表情があまりにも可愛いから。俺は女王モードに入った星くんの言うことに、大人しく従ってやることにした。

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