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第685話
色んなことを独りで考えて、どうしようもなく雪夜さんが恋しくなって。知らぬ間にソファーで眠っていたオレは、すっかり暗くなってしまった部屋の中でステラを抱え、なにもせずにただボーッとしている。
夏休みの課題をやる気になれないのは、きっと兄ちゃんのあんな姿を見てしまったからだって……オレは、勉強しない理由を兄ちゃんのせいにした。
テレビを観ることもなく、音楽を聴くこともなく、本当に何もせずに雪夜さんの部屋にいるだけのオレ。何かしたいのに何もやる気になれなくて、でも何故か此処にいれるだけで安心する。
ふぅーっと深く息を吐いたオレは、虚ろな目を擦りつつテーブルの上に放置してあったスマホに手を伸ばした。
「うわ……すごい、通知いっぱいだ」
画面上に表示された、新着メッセージの通知。
弘樹からは夏休みの課題を一緒にやろうって連絡がきていたり、誠君からは暇な時があったら遊ぼうってお誘いがあったりするけれど。
その中でオレが返事をするのに最優先したのは、兄ちゃんからの連絡だった。オレが眠っているあいだに送られてきたらしい兄ちゃんからのLINEは、スタンプまみれで早く返信をしてほしいって感じの内容だったから。
とりあえず、オレは兄ちゃんからの用件を確認するため兄ちゃんに連絡を入れた。
『せーい、何回連絡しても出ないから心配した。今はユキちゃん家にいるの?もう外真っ暗になってるけど、今から帰ってくるつもりなら迎えに行くよ?』
出ないと思って掛けた電話に一瞬で出てくれた兄ちゃんは、何故だか分からないけどオレが雪夜さんのお家にいることを知っていて。今日は泊まりだとか兄ちゃんや母さんに何も言わずに出掛けたからか、兄ちゃんはオレのことを酷く心配してくれている様子だった。
「あ、ごめん……雪夜さん家で勉強しようと思って来たんだけど、オレいつの間にか寝ちゃってて。迎えに来てもらうのも悪いから、今日は此処に泊まってくことにする」
寝ぼけた頭だったから、今日の出来事をオレは忘れていたのに。本当は、どんな顔をして兄ちゃんに会えばいいのか分からなかったんだ……だから、オレは家に帰る気も起こらず、泣き疲れて寝てしまったのに。
寝て起きても、現実は変わらない。
戸惑っている心はそのままで、オレは雪夜さんのお家に泊まっていくと兄ちゃんに伝えたのに。
『独りでユキの家にいて、辛くないの?いくらせいがそこにいたって、ユキは帰ってこないんだよ?』
この日の兄ちゃんは、オレの意見をすんなり呑んではくれなかった。それどころか、オレの心を抉るようなことを兄ちゃんは言ってきたから。
「……オレがどこでどうしようと、兄ちゃんには関係ないじゃん。雪夜さんがこんな真夏に帰ってこないことなんて分かってるよ。でも、オレは此処にいたいんだもん!オレは、兄ちゃんとは違うんだからっ!!」
寂しさと、苛立ちと。
今日目撃した兄ちゃんの行動も含め、思いをぶちまけてしまったオレは、もう後に引けなくなっていた。
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