691 / 720
第691話
「せい、ストップ。人の話は最後まで聞こうね?俺が大事な人って言ったのは、今日会ってた相手が優のお姉さんだからなんだよ」
「……へ?」
色んな感情をぶつけるように話していたオレの言葉を遮った兄ちゃんは、クスッと笑ってオレを見る。たぶん今のオレは、とっても間抜けな表情をしているんだと思うと、途端に羞恥心が込み上げてきて、オレは俯いてしまった。
「星君、星君の気持ちはとてもありがたい。俺達二人の付き合いを真剣に思ってくれていること、心から感謝する」
「ありがとう、せい。でもね、此処にわざわざ優がいるのは、優のお姉さんの話をせいにしようと思ったからなんだ」
優さんと兄ちゃんに感謝されるようなこと、オレはまったくしていないのに。それどころか、オレは勘違いして、二人の付き合い方に口を出してしまったのに。
優しく微笑んでくれる兄ちゃんと優さんは、やっぱりオレなんかよりずっと大人なんだと思った。
「優のお姉さんとは、俺も結構仲良くて……どうしても、俺に話があるって言われたから、今日は優のお姉さんと駅で待ち合わせしてカフェでお昼食べてたの」
「本当は俺も付添う予定でいたんだが、急に予定が変更になってしまってな。俺は後から、光と姉の元に駆けつけたんだよ。姉の勝手な行動で、星君を傷つけてしまってすまなかった」
「そう、だったんですね。オレも、一人で勘違いしちゃってごめんなさい。でも、兄ちゃん……どうして、手なんか握ってたの?」
オレが見た綺麗系のお姉さんは、優さんのお姉さんだってはっきり言われたら、こうもスッキリするものなんだ。
優さんのお姉さんだから、あんなに美人さんだったんだって。理由が分かると納得できる容姿に加え、大事な人って言葉の意味も理解できたオレは一安心する。
優さんのお姉さんなら、兄ちゃんと一緒にいても問題ないことは分かったけれど。なぜ二人が手を握り合っていたのか、オレにはさっぱり分からない。
「あーんとね、どう説明したらいい?」
珍しく、兄ちゃんが言葉を見つけられずにいる。そんな兄ちゃんは、首を傾げて優さんに助けを求めていて。
兄ちゃんから話題をバトンタッチされた優さんは、オレだけが把握出来ていないお姉さんの話をしてくれた。
「そうだな……姉の趣味というか、なんというか。俺と光を昔から見てきた姉が、俺達の付き合いに勘づいてしまって。男同士で恋仲の俺と光のことを、全力で応援したいと言い始めてしまってな」
「それって、すごいことじゃないですか!?」
優さんのお姉さんの趣味っていうのは、よく分からないけれど。でも、兄ちゃんと優さんの付き合いを身内の人が許してくれるなんて、驚きを通り越してただ凄いとしか思えない。
あまりにも嬉しいことを聞かされ、オレは興奮気味で兄ちゃんと優さんを見るけれど。
二人の感情は、オレの気持ちとは異なるのか……二人とも、とても困った顔をしながらオレを見つめていた。
ともだちにシェアしよう!