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第694話
「そうねぇ……私なら、光ちゃんと同じ選択をすると思うわ。お姉さんの気持ちは嬉しいけど、だからって自分達の関係をペラペラ話すことなんて出来ないと思うから」
「そういうものなんでしょうか?」
「そういうものなのよ、特にあの二人の場合はね。秘密主義を貫いてきた光ちゃんと優君ですもの、簡単に肯定するようなことはしないわ」
オレには、よく分からない。
男同士で付き合っている事実は変えられないのに、なんだか嘘をついているみたいで。自分達の関係を守るために、そのために人につく嘘は、とても悲しいものだと思ってしまった。
ただ、好きなだけ。
その気持ちに、嘘はつけない。
だからこそ、兄ちゃんは優さんとの付き合いを否定したのかもしれないけれど。
「オレ達には、隠して生きるしか方法はないんでしょうか。まるで不倫みたいに、世の中のタブーだと分かっていて手を取り合うのは、やっぱりダメなことなんですか?」
「日本の刑法には、他国と違って同性愛を処罰する条項はないわ。同性愛は、日本では処罰すべきものという価値観がないから」
「道徳心、ですよね。でも、海外では罰せられることも少なくない……となると、兄ちゃん達の判断は間違いじゃないのかも」
「視野を広げると、そうなってしまうわね。カミングアウトをして、生きていく人もいるけれど……なんにせよ、男女の付き合いのように周りが認めてくれるわけではないのが現実よ」
「でも、そうだとしても……オレはやっぱり、雪夜さんと一緒にいたいです。一般的な幸せが手に入らなくても、雪夜さんの傍で笑って、何気ない日々に幸せを感じたい」
結婚とか、子供とか。
オレが雪夜さんの傍にいること望んでしまうと、そういった幸せは得られないけれど。
それでも、好きな人の隣で。
小さな幸せを感じられるなら、オレはそれだけで充分なんだ。これから先、もしも……もしも雪夜さんが、オレ以外の人と家庭を築いていきたいと思ってしまったら。そしたら、話は別になっちゃうけれど。
今は少しでも、そうならないように願うのみで。離れているこの時間も、オレは雪夜さんのことを思うばかりだった。
そして、こんな幼いオレの考えでも、ランさんが真剣に答えてくれることに安心する。
「星ちゃんはね、それでいいと思うの。ううん、そう思い続けてほしいってのが私の意見なのよ。雪夜と二人で、星ちゃんが幸せになれる術を見つけ出してほしいわ」
「ランさん、ありがとうございます……オレ、頑張ります。とりあえず、雪夜さんが無事に帰ってきてくれるまで……なんとか、一人で頑張ってみます」
「あら、一人でなんて寂しいこと言わないでちょうだい?私、一緒に頑張りましょうねって言ったじゃないの。いつでも頼ってくれていいのよ、雪夜もそうなんだから」
クスッと笑ってそう言うランさんは、とても頼りになるお姉さんのようで。お兄さんだったっけと、頭の中で訂正したオレは、ランさんの笑顔につられて一緒のように微笑んでいた。
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