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第701話
「一筋縄じゃいかないか……でも、案外こうされるのも悪くないかもしれない」
俺の下で微笑むヤツは、星くんだけで充分なのに。どこまでも悪趣味な男はそう言って俺を見上げ、絡ませた手に力を込める。
「お前さ、自分の状況分かってる?」
俺に馬乗りされ、殴られても首を絞められてもおかしくない体勢なんだが。
「ベッドの上でキミと二人、俺は雪夜クンに押し倒されて胸が高鳴っているけど……それが、ナニか?」
余裕そうな表情を見せ、この状況を楽しんでいらっしゃる柊侑世くん。いつまでその余裕を保つことができるのだろうと思いつつも、俺は心底お怒りなワケで。
けれど。
何度も言うが、俺は問題を起こせないから。とりあえず、俺は苛立ちを隠して……柊の答えにニヤリと微笑み、組み敷いた男の耳元で囁いていく。
「ナニか、じゃねぇーんだッつーのッ」
「ッ!!」
耳に口付けるフリをして、男の急所を膝で思い切り蹴り上げた俺の手から、絡みついていた柊の手が離れていく。その手で股間を押さえ俺の下で悶絶している柊は、激しい痛みに顔を歪めていた。
俺はそんな不愉快な光景を眺めながら、ベッドの上で立ち上がるとそのまま勢い良く柊を蹴りつけた。その衝撃に耐え切れずベッドから転がり落ちた柊は、ただ呻き声を上げて身体を丸めている。
「俺、お前に二回もどっか行けっつってやったと思うんだケド、アホな侑世くんには聞こえてなかったんだな」
床に転がる柊の前でベッドに腰掛け、俺はそう言って顔を背けている柊に問い掛け息を吐く。目にかかる前髪が邪魔で、手首に付けていたヘアゴムで髪を結んでいる俺を、柊はチラ見するとその後すぐに視線を逸らし唇を噛んでいた。
本当なら、このままコイツの顔面を踏み付け喋ることも困難にしてやりたいところではあるけれど。情けというより自分の立場を守るため、俺は大人しく柊に手を差し伸べてやる。
「お前の望み通り遊んでやったんだから、感謝しろよ、クズ」
「手荒い……遊びだ、ッてぇ」
「そりゃ痛いだろうな、股間命中したし」
きっと柊は、立てないくらいの痛みに襲われているんだろう。ベッドから落ちた痛さより、そっちの痛みに未だ眉を寄せている柊は苦しそうに息をしている。
それでも喋り、痛いと言いつつ俺の手を取ろうとした柊は、差し出した俺の手に触れることができずに、一度上体を自身の手で起こした後、その場で胡座をかいて俺を見上げて笑う。
「普通じゃないよ、キミ」
「お前もな」
乱れた前髪を整えることもせず、ここでの負けを認めた柊。けれど、俺を見る眼差しは変わることがない。
「普通じゃないけど、そこがイイね。やっぱり雪夜クンは、俺の心を煽る存在だ。色んな意味で、益々俺はキミを気に入ったさ」
コイツは、屈辱的な体験をするのが好みなのだろうか。頭がおかしいクズ野郎の考えが、俺には全く理解できない。いや、理解したくないといった方が正しいのかもしれないと思った。
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