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第705話
少しだけ見慣れてきた、スペインの街並み。
明日の朝にはこの地から国境を越えるのかと思うと、何処か切なく感じてしまう。
ホテルの外壁に凭れ、辺りの風景を眺めながら俺が煙草に火を点けた時だった。適当に羽織ったパーカーのポケットに突っ込んであったスマホが震え、俺は煙草を咥えたままそこからスマホを取り出しタップする。
『雪夜、生きているか?』
「生きてなかったらお前に連絡しねぇーだろ、優」
祈りは捧げると叶うものなんだろうかとアホなことを思いつつ、俺は数ヶ月ぶりに優の声を聴く。
『今、大丈夫か?少し込み入った話になるのだが、時間が取れそうにないならまた日を改める』
「時間はあっから気にすんな。それよりお前ら、星にナニした?」
俺が持っている情報では、三人でランの店に行ったことしか分からない。その理由を俺は優から得るためにそう問い掛けたが。
『何もしていない、と言いたいところだが。雪夜、そろそろ俺達は限界だ……お前が勘づいていること、その予測は的中していると判断して聞いてほしい』
「優、まさかお前……」
友人二人が、別れを選択していること。
気づいてはいたが、見て見ぬ振りを突き通してきた俺。そんな俺に、優の言葉は嫌な予感を植え付ける。
何も知らない星に、しかも俺が傍にいないこの時に。光と優が別れることを、二人が星に話していたとしたら……ないとは思うが、一瞬そんな最悪なことが俺の頭を過ぎったけれど。
『安心しろ、星君にはまだ何も言っていない。俺と光の関係が拗れていることを心配していた星君に、俺達なら大丈夫だと伝えただけさ』
落ち着いた声色で、あっさり俺の考えを否定した優。しかし、俺には星くんが大丈夫だとは思えなくて。
「ソレ、大丈夫じゃねぇーだろ。あー、だからランとこ行ったのか……星は、アイツ、泣いてなかったか?」
俺の問い掛けに、優は詳しくその日起きた出来事を話してくれた。色々と動揺していたらしい星をランに任せ、優と光は二人で今後について話し合ったそうだが。
『雪夜、お前が帰国したら話したいことがある。これは俺の独断で決めたことだから、出来ればお前と二人だけで話をしたいんだが……可能か?』
「俺が、無理だって言うとでも思ってんのかよ?」
『そうだな、すまない』
光にだけは従順なこの執事が独断で決めたということは、おそらく光にはこのことを告げずに会って話がしたいということだろう。
それはきっと、俺が知り得ない光についての話になるんじゃないかと思い、俺は光と優の関係に亀裂が入っていることを確信した。
「俺がそっち帰るまでは、どうにかして光を王子のままでいさせてやってほしい。お前らが何考えてどうすんのかは自由だけど、星に勘づかれるのは光が辛いだろ」
俺が研修に来る前から、光はもう王子様を演じきれていなかった。星もそのことには気づいていたようだし、このままいったら光と優の関係に終わりがくることを星もそのうち勘づくだろうと思う。
それだと困るのは、俺ら四人全員だ。
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