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第707話
【星side】
兄ちゃんと優さんの話を聞いてから、何度かランさんのお店に行っては相談に乗ってもらって。やっと心が落ち着き始めた頃には、夏休みも残すことろあと僅かになっていた。
雪夜さんとは毎日連絡を取っているけれど、伝えたいことが上手く伝えられないまま時間だけが過ぎていくのを感じる。寂しさは募っていくばかりだけど、オレにとってはこの夏休みが高校生活最後の夏休みになるから。
オレはなるべく孤独を感じないように、弘樹や西野君と一緒に課題をこなしたりして、二人の幸せを分けてもらっていたんだ。このあいだは初めて西野君のお家にお泊りして、三人で枕投げをやって遊んだりもした。
西野君とオレがチームを組んで、弘樹目掛けて枕を投げたり、たくさんある枕とカラフルなクッションを使って、弘樹をベッドに沈めてみたり。
でも、小悪魔で愛らしい西野君と弘樹をいじめ倒して遊んでいたら、弘樹が拗ねちゃったから。次の日はお詫びの意味も込めて、弘樹が夢だと言っていた大人のお子様ランチを西野君と二人で手作りしてあげたんだ。
エビフライとハンバーグ、ウィンナーと鳥の唐揚げ、チキンライスとデザートはプリンっていうなんとも贅沢なワンプレート。いくら大人になったって、お子様ランチは食べたいよねって。子供と大人の狭間で揺れるオレ達は、三人で笑いながらとても楽しい時間を満喫した。
弘樹と西野君だけじゃなくて、オレは誠君や健史君とも休みの期間を過ごして。
二人に連れて行ってもらったゲームセンターで、オレは生まれて初めてアーケードのカーレースゲームを体験したんだけれど。オレのあまりの安全運転ぶりに、誠君と健史君はお腹を抱えて笑っていた。
ちょっとだけ、バカにされている気がしたけれど……あまりにも二人が無邪気な笑顔で楽しそうに笑うから、オレは若干頬を膨らませつつも、すぐに笑顔になってしまったんだ。
その後は、真剣勝負の二人のレースを後ろから観戦させてもらって。かなりの僅差だったけれど、健史君に負けてしまった誠君が罰ゲームで俺と健史君のご飯を奢ってくれたりした。
誠君が最後の最後で手を抜いたことは、後ろから見ていたオレだけが知っている秘密。
賑やかで楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまうから。いつか、この時が思い出に変わってしまうことを思うと心が切なくなる。
何も言わないけれど、弘樹と西野君がオレのことを気遣ってくれているんだっていうのは伝わってきたし、誠君と健史君だって何かある度にオレを誘ってくれることが嬉しかったし、ありがたかった。
友達皆んなに支えてもらって、それなりに充実した夏休みを送ってはいたのものの。やっぱりオレは、雪夜さんが恋しくて……夏休みも終盤に差し掛かった土曜日の週末、オレは雪夜さんのいないお家まで、電車を乗り継ぎやって来たんだけれど。
「……ウソ」
マンションのエントランスまで来た時、オレは人生で二度目の幻覚を見てしまったんだ。
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