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第714話
飛鳥さんと出逢って、ランさんのお店に来て分かったことが二つある。一つは、ランさんと飛鳥さんはとても仲が良くて、二人には信頼性があること。もう一つは、二人が雪夜さんを大切に思っていること。その他にも色々あるんだけれど、そのどれもがこの二つに繋がることだから。
オレと雪夜さんのことを、そう多くは語らないランさん。けれど、少ない言葉でも飛鳥さんには伝わっているようで、オレと雪夜さんの関係性をランさんから教えてもらった飛鳥さんは、とても優しい表情で微笑んだ。
「アイツらしいな、やーちゃんはやっぱすげぇ可愛いわ」
「貴方の可愛い弟の恋人も、とっても可愛くて強い子だわ。星ちゃんがいなかったら、あの子は今のように夢を追うこともなかったでしょうしね」
「オレ、雪夜さんの重荷にはなりたくないんです。離れてる今はすごく寂しいけど、たくさんの人たちから支えられて、せっかくもらったチャンスを雪夜さんには棒に振ってほしくなくて」
「だからって、半年いねぇのはキツいだろ……俺、アイツらいねぇだけですげぇ暇になっちったし」
徐々に燃えていく煙草を見つめ、そう言った飛鳥さん。アイツらって、複数形だった言葉がオレは少し気になったけれど。本当に暇そうな飛鳥さんの姿は気怠く、流し目でオレを見る仕草にドキッとしてしまう。
この後に飛鳥さんがする表情を、オレはなんとなくだけど分かってしまったから。飛鳥さんから視線を逸らし、ランさんを見たオレだったけれど。
夜の営業時間に向けての準備で、ランさんは何かと忙しそうで。カウンターから奥の厨房へと消えていくランさんの姿を見送ったオレは、スッと伸びてきた右手で顎を掴まれ、飛鳥さんの瞳に捕えられてしまった。
「……あのっ」
やっぱり。
オレの予想通りの表情をする飛鳥さんは、ニヤリと妖しい笑みを浮かべている。琥珀色の綺麗な瞳が柔らかく細められ、ゆっくりと上がっていく口角は片方だけ。
危険な香りがする飛鳥さんから逃れたいのに、今のオレにはその術が見つからない。
「やーちゃんがいないあいだ、あのクソガキの代わりに俺が星を慰めてやるよ……お前、すっげぇ物欲しそうな顔してる」
ゾクゾクと甘く痺れるような声で囁かれ、オレは恥ずかしさを堪えるためにギュッと目を瞑る。拒否権はないって、さっき飛鳥さんに言われてしまっているオレは、どうしたらいいのか分からなくてそのまま俯こうとするけれど。
飛鳥さんの人差し指だけでオレの顔は上を向かされ、添えられていた親指で唇を撫でられてしまう。ドクンドクンって、だんだん大きくなっていく心音を聴きつつ、オレは身体を強ばらせるのが精一杯なのに。
「こーら、ちゃんと俺見とけって……そう、上手。イイ子だな、星」
囁かれる声と言葉に促されてしまった身体は、オレの意志と反するように瞼を開けてしまって。柔らかく微笑む飛鳥さんの瞳には、上目遣いで飛鳥さんを見つめるオレの姿が映っていた。
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