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第715話

抵抗しないといけないのに、できないのはどうしてだろう。雪夜さんと離れてから、すっかり触れられることのなくなったオレの身体は簡単に熱を持つ。 ずっと、考えないようにしていたけれど。 本当は雪夜さんとキスだってしたいし、えっちなことだってしたい。 それでも、我慢して、我慢して。 とっくに限界を越えているオレの身体は、雪夜さんを求めてしまう……この人は違うって分かっているのに、雪夜さんと同じ淡い色の瞳に吸い込まれそうになる。 声も、表情も。 仕草も、何もかも。 雪夜さんなんじゃないかと、錯覚しそうなくらいに心を大きく揺さぶられ、胸が痛くなったオレの頬に温かな液体が流れていく。 「……泣いてんぞ、お前。俺こんな拒否られ方初めてだわ……星君、そんなにあのクソガキが好きか?」 飛鳥さんにそう言われ、オレは自分が泣いていることに気がついた。頬を伝う涙を手の甲で拭ってくれた飛鳥さんは、オレの瞳を真っ直ぐに見つめてきて。 「好き……っ、大好き……」 オレから零れ落ちた言葉を聞いた飛鳥さんは深く息を吐き、吸っていた煙草を灰皿に押し付け火を消してしまうけれど。 「……え?」 一瞬、何が起こっているのか分からないオレを抱き締めているのは飛鳥さんだった。 「アイツが好きなら他のヤツに懐くんじゃねぇ、その涙もさっき俺に見せた笑顔も……あのクソガキがお前の元に帰ってくるまでとっとけ、いいな?」 囁く声はとても落ち着いていて、その言葉に耳を傾けたオレは、飛鳥さんの温もりに包まれていく。 「星君のココロもカラダも、アイツのモンだってことすげぇよく分かったから。素直で純粋なその気持ちのまま、やーちゃんのこと待っててやってほしい」 「飛鳥、さん……」 「アイツが恋しくてどうしようもなくなったら、今日のこと思い出せ。もし俺より変な野郎に捕まっちまったら、そん時は俺に頼ればいい。あのクソガキの代わりはいねぇけど、あと数ヶ月頑張れるか?」 陽だまりのような優しさで、オレを包んでくれた飛鳥さんはゆっくりと身体を離してオレにそう尋ねてきて。オレはその問い掛けに、こくこくと何度も頷いた。 何を考えているのか、分からない不思議な人。 冗談なのか本気なのか、それすらも分からない言動ばかりだけれど。飛鳥さんは、やっぱり雪夜さんのお兄さんなんだなってオレは思ったんだ。 似ていたのは、容姿だけじゃなかったから。 偶然の出逢いも、誰かを思いやることのできる優しさも。ちょっと不器用で、だけど何をするにも余裕そうで。飛鳥さんとは今日会ったばかりだし、オレの考えは間違っているのかもしれないけれど。 「ありがとうございます、飛鳥さん」 どうしても伝えなきゃならない想いを声に出したオレは、飛鳥さんに向かいに深々と頭を下げて。そんなオレたち二人のやり取りを陰ながら見守ってくれていたらしいランさんは、知らぬ間にオレの後ろに立ち、オレの頭を優しく撫でてくれた。

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