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第721話
時間が、元に戻ることはない。
つい俺の口から洩れた言葉に、星は怯えていた。
電話越しでも伝わる、俺への恐怖心。
俺がどれだけあの兄貴を殺したくても、どれだけランに暴言を吐きたくても。それは星の前で言っていい言葉ではないと、そう分かっていたのに。
俺は星のことよりも、自分の感情を優先させてしまったことが腹立たしかった。飛鳥に出逢って、俺よりも星の方が驚いただろうし、怖い思いをしたんじゃないかと思う。
それなのに、優しい言葉のひとつ満足に掛けてやることができない。俺は、いつまで情けないヤツでいれば気が済むのだろう。
何のために、離れることを選択したのか……その答えをしっかりと表してやることができなければ、星が余計に離れてしまう気がして。
どんなことがあっても、俺は星を信じたい。
その思いだけが、この時の俺には救いだった。
問い掛けた声色に優しさが混じることを俺が祈っていたら、星は一つ一つを思い出すように言葉を紡いでくれて。どうやら星は飛鳥に色々とされたらしいが、それでも星は無事だということがようやく素直に受け取れた。
考えながら言葉を選んで話す星の声を聞きつつ、俺は少しでも心を落ち着かせるために煙草に火を点けたのに。星が出逢った男は、俺の兄として星の前に現れたことを知り、安心感と気恥しさが一気に込み上げてきて。
正直に嬉しいと言うこともできず、俺は大きく溜め息を吐いた後、星に話しかけていた。
俺の星に飛鳥が触れたことは変わらないし、そこは許さないと思ったけれど。それでも、俺は本当に好きに生きていいんだと……あのクソでクズな兄貴が、俺と星の付き合いを認め、星を励ましてくれたこと。
俺には絶対に口にしない飛鳥の本音を知った俺は、やっぱり小っ恥ずかしい気持ちが抑えきれずに苦笑いして。飛鳥もランも、それからもちろん星くんも。
それぞれ大きさは違えど、どっかで俺は気にかけてもらえていたのだと……そう感じた俺は、星の傍にいてやれないことを謝罪していた。
愛おしいと思う人。
今すぐにでも抱き締めてやりたくて、それができない現実に心を痛めることもあるけれど。
星の代わりなんてモンは、何処を探したって見つからないから。たった一人の愛する人が、今日も笑って眠りに就けることを願う。
必死で、孤独に耐え続けている星くん。
通話が終わってしまったら、コイツは泣くんじゃねぇーかと思うような声で、星は謝罪した俺の言葉を否定した。
笑わなきゃとか、心配させたくないとか。
自分の存在が重荷にならぬように、星はきっと……今もスマホ越しで、男らしく強がっているから。
目には見えない成長を感じ、それがほんの僅かでも可愛く思えて。星くんのこの雰囲気に、あのクズ野郎も呑まれたんだろうと俺は思った。
弱いようで、とても強い心を持った男の子。
泣き虫はなおらなくても、純粋で真っ直ぐなその想いに、俺は全力で応えてやりたい。
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