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第722話

『あの、雪夜さん……オレ、その』 色々と考えさせられる飛鳥の言動と、おそらくそれを見守っていたランの行動。ある程度のことを知り、俺にとっては星くんが何より大事だと思っていた時だった。 途切れず、続いていた通話。 その電話越しで照れくさそうに声を漏らす星がいることに気づいた俺は、なんとなく仔猫が言いたいことを察してしまって。 「……我慢の限界、か。星くんも、ちゃんと男の子だもんな」 煙草の火を消しつつ、そう言った俺に星からの返事はない。けれど、カサっとスマホと髪が擦れる音がして。恥ずかしくて声は出せないが、こくこくと頷く星の姿が目に浮かび、俺の頬は緩んでいく。 心で繋がり合えるなら、カラダだって繋がり合いたい。そう思ってしまうのは当然で、もう何ヶ月もその行為をしていない俺と星は、お互いに限界を越えているんだと思った。 この世で唯一、容姿だけなら俺の代わりが務まる男。その逆も然りということを、酔っ払いの上司が俺に証明してくれたが。そんな飛鳥に出逢ってしまった星くんは、堪えきれない欲と今日も独りで戦うことになる。 「オレ、もうムリ……です」 最中に、よく星が洩らす言葉。 今は意味が違うその言葉で、俺に助けを求めてくる星くん。 すげぇー可愛いけど、星だって健全な男子高校生だ。少し考えれば……いや、考えずとも。普通、そのくらいの歳になったら分かるもんなんじゃねぇーかと思うのは俺だけなんだろうか。 しかしながら、それが分かっていたらこんなことでわざわざ救いを求めたりしないだろう。俺の仔猫は、カラダの慰め方ってもんを知らない。溜まった欲を吐き出す術、それすら分からない今の星にとって、俺の家にいるこの時間は地獄なんじゃないかと思ってしまう。 独りで行為に及んでしまえば、一瞬の快楽に溺れることは容易い。何も知らない仔猫に、このまま囁きかけ指示を与えてやるだけで、きっと星のカラダは素直に快楽に従うだろう。 何度も互いのカラダを重ね合ったその場所で、疼くモノの処理をさせてやるのも悪くはないと思うが。その後に襲われる虚しさや寂しさに、この仔猫が耐え切れるとは思えなくて。 もし仮に、星と同じ時間、星の声を聴き、俺が独りで抜いたとしても。触れ合うことも、繋がり合うこともできない……その事実を星が知った時、傍にいてやれない自分自身を俺は心底恨むから。 「星、俺もお前とひとつになりたいってすげぇー思う。我慢してんのはお前だけじゃねぇーし、俺も星と同じだ」 『雪夜さん……』 「でもな、星くん。俺はお前とシてぇーんだよ、星の代わりなんていねぇーし、欲しくもねぇー。だから俺はお前に会えるまで、お前と一緒に我慢する。ムリだと思わないように、約束でもすっか?」 『……うん、する。約束、する』 単純に欲を満たす行為だとしても、それは二人でするから意味があるもの。触れ合って、愛を確かめ合う行為なんだと……そう教え込んできたアイツの心に、これ以上傷を負わすようなことはしたくなかった。

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