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第723話
俺のこの選択が、正しいのかは不明だ。
本当に相手のことを考えるなら、とりあえずなんでもいいから欲を満たしてやれよと思うヤツもいると思う。
俺だって、できることならそうしてやりたい。
同じ我慢をさせる約束をして、果たしてそれが星のためになるんだろうか……そんなことを考えつつ、これは俺のエゴなんだろうと内心思ってみたりした。
……けれど。
ある意味、これは究極の束縛かもしれない。
他人も、そして自分自身ですらも慰めることをせず、互いだけを求めるのだから。
アイツ本人の手でだとしても、自慰行為なんてさせたくない。星を可愛がっていいのは俺だけ……そんなどうしようもない独占欲を感じ、洩れていくのは苦笑いだった。
「星くんが俺と一緒に我慢すんなら、俺もお前を抱くまでそういうコトはしねぇーって約束する」
『じゃあオレも……雪夜さんとひとつになれるまでは、我慢するって約束します。あのっ、絶対約束破っちゃダメですからね?どんなに綺麗な人に誘われても、ついて行っちゃダメです』
「俺は星くん以外いらねぇーよ、言っただろ?お前の代わりなんてもんはいねぇーんだ、俺が欲しいのはいつだってお前だけだから」
少しでも星に、この想いが届くといい。
そんな願いを込め囁いた言葉で、星くんは安心したようにスマホ越しでふわりと笑う。ぱっちりした大きな目を細めて、それはそれは幸せそうに微笑む星の表情が好き。
直接見れないのが、残念……というより、正確に言えば間接的にすらも見えてねぇーんだけど。アイツが持ってる柔らかくて癒される雰囲気は、離れていても伝わってくるから不思議なものだ。
きっと今頃星くんは、俺ん家のソファーかベッドで丸まって、でっかいステラ抱きながら俺と喋ってんだろうなぁって。愛らしい姿を想像し、思わず俺も笑ってしまうけれど。
『雪夜さん、今もしかして笑ってます?』
「あ?ああ、笑ってる。ステラ抱いてる星くんが、すげぇー可愛いから」
『えっ!?なんで分かるんですか?この家って、監視カメラでも付いてるんですか?オレ、どっかで雪夜さんに見られてるの?』
なんでそうなんだよ、天然記念物。
星と離れるの悩んで寝付けねぇーような俺でも、さすがにカメラ仕込むほど頭おかしくなってねぇーっての。
そう心の中で呟いて、俺は違う言葉を星くんに伝える。
「カメラあったら、泣いてたことバレちゃう……って、動揺してんね、お前。泣き虫なのは知ってるし、寂しい想いさせてることも分かってっから。そんな心配すんな、ついでにその家にはカメラなんか付いてねぇーぞ」
『じゃあなんでっ、なんで分かるんですか?雪夜さんばっかりズルイですよ、オレも雪夜さんのこと分かるようになりたいです』
「充分だろ、お前だってさっき俺が笑ってたこと分かったんだし」
たわいもない会話。
でも、通話を終了することができなくて。
お互いに切ることができなくなった俺たちは、その後せーのと掛け声を合わせて、なんとか通話を終えたのだった。
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