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第726話
「後半も結局どっちも決めきれずに0-0で勝ち点1しょっぱい試合だったね」
「まぁ、そういう日もあんだろ」
前半戦となんら変わらぬ試合展開を観戦し、スタジアムからホテルへと移動して。試合終了後に柊から食事に誘われていた俺は、柊と二人でホテル近くの飲食店にいる。
「今回の試合についてのレポート、提出は明日の午後までだったっけ?」
「そう、いつも通り竜崎コーチのメアドに送り付けといてくれって言ってた。柊、お前レポート課題の内容ってどんなふうに仕上げてる?」
「その時のテーマ性にもよるけど、結構自分の意見中心に書いてるかも。俺ならこうする、的な」
キモいと思っていた柊と、こうして食事するなんて俺自身思っていなかったが。今日の試合の見方や考え方、サッカーのことに関してだけなら柊はいい話し相手になる。
そう感じて受けた誘いは、どうやら断らなくて正確だったらしい。普段見るよりラフなスタイルで俺の前にいる柊は、気色悪い髪型から大分マシになっているように思う。
ワックスを付けずに、下ろされた前髪。
爽やかな好青年を気取るよりも、コイツにはこの方が合ってんじゃねぇーかと思いつつ、俺は気になっていたことを柊に告げる。
「このあいださ、竜崎コーチにそのこと指摘された。俺とお前のレポート課題の内容が、酷似してる時があるって……一緒にレポート書いてるワケじゃねぇーってのは、あの人も分かってる。まぁ、だから言われたのかもしんねぇーけど」
研修中、何回か提出しているレポート課題。
新しい地にやってきても竜崎さんとホテルの部屋が同室の俺は、つい最近竜崎さんからこのことを言われて妙に考えるようになっていた。
「学生じゃあるまいし、いくら研修中でもそんなことしない……って、雪夜クンはまだ学生か。そのことについて、竜崎コーチから詳しい話はされなかったのかい?」
「されてねぇーんだよ。ただ、二人の意見はかなり似てるって。書き方は違っても、導き出した自分なりの答えが一緒だって言われただけ」
「同じ価値観を持つ者同士、仲良くやれってことなのかもしれないね。ほら……俺たちってさ、初日から目つけられてるから」
「それはお前のせいだろ、顔合わせして速攻で俺に嫌味言ってきたのは、何処の誰だっつーんだ」
研修初日のことを少しだけ懐かしく感じつつ、俺は柊から視線を逸らしてビールを飲み干していく。
「ドイツ人はジャガイモとソーセージしか食べないのかと思っていたけど、そうでもないみたいだ。でもやっぱりビールは美味いね、これであの試合が勝っていたならもっと美味く感じるのに」
人の話をサラッと無視し、周りのテーブルに目を向けた柊はそう言って笑っている。そして再びサッカーの話題になれば、コイツとの話が尽きることはなくて。
なんだかんだ話しているうちに、お互いかなりの量の酒を飲んでいた俺たちは、いい具合に酔いが回ってきていた。
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