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第730話

おかしな夢を見たのでレポートやってないです、ごめんなさい……なんて、そんなことで許される世界があるなら誰しもこんなに苦労はしないだろう。 まったくやる気は起こらないが、提出期限は今日の午後16時までで。俺は課題をこなすべく、ベッドの上で枕を背凭れにしつつノートパソコンとにらめっこしている。 そんな俺とは違い、朝からしっかり机に向かって事務作業をしている竜崎さんだが。 ホテルの室内に響き渡る、バイブレーションの音。さっきからひっきりなしに鳴っているスマホの呼び出し音は、俺のものからではなく、静かな部屋の中で鳴り続けているソレは竜崎さんのもので。 仕事の連絡ならすぐに対応する竜崎さんだが、ディスプレイを確認して目を伏せる竜崎さんの姿を朝から何度も見ている俺は、竜崎さんに連絡してきている相手を悟り溜め息を吐いた。 「……相手、兄貴なら出といた方が身のためッスよ」 「ゆっ、雪君!?」 ビクッと肩を上下に揺らし、俺を見る竜崎さん。何故分かったといったような顔をされても、分かるものは分かるのだから仕方ない。 「あーっと、変な意味じゃないんですけど。あの兄貴、怒らせると厄介なんで」 「でも、なんだかとてつもなく嫌な予感しかしないんです。出ようにも、怖くて出られないというか……」 クズな兄貴に怯える上司。 普段は凛とした態度で働いてる竜崎さんでも、飛鳥には敵わないらしく、開いたパソコンの前で背中を丸めている。 こっちが昼前なら向こうは早朝で、この時間に掛かってくるということは、飛鳥の傍には今日も名も知らない女の姿があるんだろうと思った。 「竜崎さん、とりあえず俺が出ましょうか?相手が兄貴なら、俺が出ても問題ないと思うし」 兄貴と竜崎さんの関係を、俺は知らぬフリをして竜崎さんの前にいる。だからこそ余計に歯痒く思ってしまい、俺は今日もいらないお節介を焼くことになってしまったけれど。 救世主が現れたって感じの顔をして、こくこくと頷く竜崎さんは俺にスマホを手渡してくる。この人は、本当に兄貴より年上で、尚且つ本当に俺の上司なんだろうか。 そう疑いたくなってしまうくらい、今の竜崎さんの姿は幼く見えるが。俺は渡されたスマホを手にし、通話ボタンをタップした。 『ったく、やっと出たか』 何処か安堵したようにそう呟く飛鳥の声が聴こえ、俺は笑いを堪えながらカタコトの挨拶をしていく。 「オツカレサマデス、オニイサマ。センジツハ、ドーモオセワニナリマシタ」 『いえいえこちらこそ。クソ可愛いお前の子猫ちゃんと会えて楽しかったわ……って、やーちゃんナニやってんだよ』 「それはこっちのセリフだ、バカ。俺が出ても驚かねぇーのかよ、コレ竜崎さんのスマホなんだけど」 『んなこと分かってるっつーの、お前らルームシェアしてんだろ?隼ちゃんが出れねぇから代わりにお前が出たとか別に驚くことでもねぇし、素面の隼は俺を嫌うからな』

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