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第734話
夏が過ぎれば秋がきて、秋が過ぎれば冬がくる。そんな当たり前の季節の移り変わりがこんなにも嬉しく思えるのは、オレがずっと雪夜さんを待っているからなんだと思う。
「青月、お前寒くねぇのか?」
夏休みが終わり、高校最後の学園祭も終わって。いつも通りの学校生活を送っているオレは、昼放休みの時間に屋上へやってきていた。
「大丈夫だよ、健史君」
オレの後を追い、同じように屋上まできていた健史君は、心配そうな顔をしてオレに声を掛けてくれて。大丈夫ならいいけどって小さく呟いた健史君は、フェンスに凭れて空を見ていたオレの横に立つ。
「時間って、あっという間に過ぎてくよな……マジだりぃって思ってた授業でさえ、なんかありがたく思える」
「健史君のサボり癖がなくなって、オレは良かったと思ってる。誠君も横島先生にすっかり飼い慣らされてるし、このままいけばあの賭けはオレの勝ちだね」
「そういや、此処でそんな賭けしてたな。まだ卒業してねぇし、どうなるかなんて最後まで分かんねぇよ」
一緒に卒業しようねって、春に交わした約束。
あの時は、進路とか色んなことがまだあやふやで、見えない未来を漠然と考えることしかできなかったけれど。
こんなふうに立ち止まり振り返ってみれば、オレたちも少しずつだけど成長したのかなって思えて。冬服のジャケットの下に着込んだカーディガンの袖を握り、前髪を揺らす冬の風にオレは身を縮めた。
「やっぱり、ちょっと寒いかも」
「だろ、俺もさみぃもん。このあいだハロウィンやってたかと思えば、もうクリスマス商品並んでんだぜ?そのうち正月用品売り始めるし、世の中どうなってんだか」
「あと1ヶ月でクリスマスだもんね。寒いけど、オレは冬がきてくれてとっても嬉しいんだ」
暑い暑い夏の日は、思い出に変わった。
色んなことがあって、たくさん泣いた夏の日。
独りの寂しさを知って、孤独に耐え続ける日々も……そのうち、きっと思い出に変わっていくと信じて。
まだ傍にはいないたった一人の愛する人を想って、オレは今日も腕に巻いた時計を見つめている。
「ソレ、すげぇお前に似合ってると思う」
オレの腕時計を指差し、ふわりと笑った健史君はとても綺麗に見える。元々クールビューティーな健史君は、笑顔を見せなくても充分綺麗な人だけれど。
「なぁ、青月……お前はさ、永遠ってあると思う?」
「え?」
笑った顔の方が好きだなって思ったオレに、健史君はそう問い掛けてきて。オレの腕時計の小さな針を見つめ、切なそうに笑った健史君の表情は、笑顔と呼べるものじゃなかった。
「永遠って言葉を実現のものに出来るなら、俺はアイツと永遠に此処で笑っていたい。俺のちっぽけな願いだけど、この願いは一生叶わない」
「健史、君……」
「マコには、絶対言うなよ」
健史君が此処で、ずっと笑っていたい相手。
アイツと呼ばれた誠君の姿は、今は此処にないけれど。
「オレが言わなくても、誠君も健史君と同じこと思ってると思うよ?二人とも、素直じゃないんだから」
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