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第735話

「俺がアイツに対して素直になるなんて、死んでも無理だと思う。考えてみろよ、相手マコだぜ?」 「すぐ調子に乗って、誠君は無駄に俺様を発揮するだろうね。でも誠君って、健史君にいじめられるの案外好きだと思う……ピアス引っ張られたりしてるけど、痛い痛いって言いながらいつも嬉しそうにしてるし」 「お前俺より毒舌だな、知ってたけど」 「オレは、素直じゃなくても仲良くできる二人が好きなんだ。このままここにいることはできなくても、健史君も誠君も付き合い方は変わらないんじゃないかな?」 友達として、信頼し合っている二人。 喧嘩するほど仲がいいって言葉がとても良く似合う誠君と健史君は、お互い素直になることはないと思う。 永遠の18歳、永遠に高校生、なんて。 そんなこと無理なのは、健史君も分かってる。 でも、だからこそ……きっと、二人は今が心地よく感じていると思うんだ。 「変わらない、か。ジジィになってもアイツと言い合うとか、それはそれで嫌だな」 そう言って俺の隣でパックのレモンティーを飲んでいく健史君は、ここに誠君が現れるのを待っている。今日が日直当番で、昼休みにやることがある誠君。そんな誠君は、横島先生の奴隷とかして、実習の下準備を手伝ってからここにやって来ると思うから。 二人でぼんやり、空を見上げて。 オレが健史君と、ゆっくり流れていく雲の行方を見守っていたときだった。 バタンっと大きな音を立て、屋上にやって来たのは相変わらず派手な色の髪をした誠君で。 「ケンケンッ!!なんで俺置き去りにして、先にチビちゃんとラブラブしてんだよっ!?」 「うっせぇ、日直の仕事を俺が手伝う義理なんてねぇだろ……ってか、別にラブラブしてねぇし」 「してんじゃんっ!俺も交ぜろ、3Pだ、3Pッ!!」 「バカも大概にしとけ。昼間っからくだらない下ネタぶっ込んでくんじゃねぇぞ、マコ」 綺麗な顔をした友達の表情は、不機嫌気周りない怒りの表情へと変わっていく。でも、それがいつもの健史君で。怒られてもヘラヘラしてるのが、いつもの誠君だから。 「野郎ばっかで3Pとか、どんな地獄絵図だよって話だな。あー、腹減った……3Pは冗談だけどさ、俺も仲間に入れろ。ケンケン、ついでに今飲んでるそのジュースくれ」 「誰がやるか、クソ野郎」 「お疲れさま、誠君」 「チビちゃんはこんなに優しい言葉掛けてくれんのに、ケンケンはツンツンしててちっとも俺に優しくねぇんだから」 オレと健史君のあいだに入って。 オレには笑い掛け、健史君にはムッとした表情を見せる誠君。でも、この後の展開が読めてしまったオレは、誠君から少しだけ距離を置く。 もう何度も目にしてきた光景、誠君の左耳に刺さった安全ピンを健史君が引っ張るのは時間の問題で。 「ぅ、いってぇッ!お前本当に可愛くねぇな、ツンツンしてるヤツはたまにデレるっつーのが世の中の常識だろ!?」 「お前の勝手な常識に付き合ってる暇なんかねぇんだよ、俺にそんなもん求めんな」

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