736 / 952

第736話

いつも通りの荒々しいやり取りを繰り広げ、完全にスタミナ切れの誠君は地べたに座り込み項垂れしまうけれど。 「あー、どっかに面白いヤツはいねぇもんかなぁ……って、こういう時に使うのかッ!?俺、ちょっと大人になったかもしんねぇわ」 ブツブツと何かを呟いたかと思えば、急にテンションが上がりブワッと立ち上がった誠君の言動に、オレも健史君も驚いてしまって。 「……マコ、お前意味分かんねぇ」 健史君と顔を見合わせ、首を傾げたオレと同じことを思っていたらしい健史君は誠君にそう言った。 「今のさ、よくうちの店に来る常連さんの口癖なんだ。俺が店の手伝い始めたときから来てくれてる人で、すっげぇイケメンの兄さんなんだけど。俺、その人みてぇになりてぇなぁって最近ガチで思ってんの」 バーを経営しているお父さんの手伝いで、誠君がお店に立って接客しているのは知っているけれど。分かるような分からないような説明をされ、とりあえずなんとなく分かったことをオレは誠君に尋ねてみる。 「誠君が、憧れてる人の口癖ってこと?」 「そうソレ、チビちゃん正解!」 「面白いヤツってどんなヤツだよ、その兄さんも変わってんな。お前も変わったヤツだし、憧れるのには丁度いいんじゃねぇの」 まだまだ大人になり切れないオレたちは、あんなふうになれたらって思う人を無意識に探しているのかもしれない。オレが憧れる人はランさんだけど、誠君が憧れる人はどうやらお店に来てくれる常連客のお兄さんらしくて。 「あの兄さん、相当女喰ってると思うんだよなぁ……カッコイイつっーか、大人な感じで色気あってさ。なんだろ、強いていえばセクシー」 その人の話をする誠君は、目をキラキラさせている。憧れを通り越し尊敬の眼差しで空を見る誠君を、健史君は鼻で笑い飛ばしていて。 「ほど遠いな、お前にはセクシーさの欠片もねぇし。せいぜい頑張っても、耳に穴空けて喜んでる変態としか思われねぇよ。そんなに女抱きてぇなら、告ってきた女子片っ端から抱いてきゃいいだろ」 「そうなんだけどよ、そうじゃねぇんだって。バカなケンケンが分かるような説明できねぇけど、俺はもうガキに興味ねぇの。一年のとき散々遊んだし、女子ってうぜぇのばっかだし」 「一番うぜぇお前が言うな。そう言ってるうちは、マコも充分ガキってことだ。どんだけお前が背伸びしたとしても、結局こうやって騒いでりゃ意味ねぇしな」 意味がないことでも、それが楽しいときだってある。もしかしたら、それは今しか味わうことのできないものなのかもしれない。 そんなことを考えていたら、午後からの授業が始まるチャイムが鳴り響いてしまって。なんだかんだ屋上で笑い合っていたオレたちは、急いで階段を駆け下りていく。 「俺、まだメシ食ってねぇってのにッ!!」 「どうでもいい話して、一人で盛り上がってたマコが悪ぃんだろ。んなことより、次の授業なんだった?」 「おじいちゃん先生の食品衛生っ、今日初っ端から小テストやるって言ってた気がする!」

ともだちにシェアしよう!