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第737話

大人になれないオレたちの、なんてことない日常。 特別なことは、何もないけれど。 平凡な毎日を過ごすことができるのは、幸せなことだと思うから。なんとか間に合った授業を受けつつ、オレは一番後ろの席で居眠りしている二人の姿を見て微笑んでいた。 それから何事もなく午後の授業が終わり、帰ろうとしたオレを引き止めたのは西野君で。 「今から弘樹くんと家で期末テストの勉強するんだけど、青月くんも一緒にどうかな?」 上目遣いでオレを見る西野君は、相変わらず可愛く思えるけれど。突然のお誘いに、オレはすぐ返事ができなくて。 「ありがとう、西野君。でも西野君の家で勉強するってなったら、その……オレ、二人の邪魔したくない」 上手く断る言葉が見つからず、そう言ったオレに西野君はブンブンと大きく首を横に振った。 「ううん、邪魔してくれていいの。むしろ今は青月くんが必要不可欠でね……詳しいことはここじゃ話せないけど、とりあえず一緒に来てくれる?」 なんだかとっても必死な西野君につられて、思わず頷いてしまったオレは西野君の後を追い学校を出てて。オレたちの周りから同じ学校の生徒の姿が少なくなり始めたころ、西野君はオレを誘った理由について話出す。 「弘樹くんが僕と一緒だと、ちっとも勉強してくれなくて困ってるんだ。青月くんもよく知ってると思うけど、弘樹くんってそれじゃなくてもバカじゃん?」 「まぁ、うん。弘樹は一人だと勉強できないからね、ほっとくといつまでも遊んでるから」 「一人じゃできないから二人でって思ったんだけど、二人だけだと弘樹くんの集中力が違う方に向いちゃって」 「違う方って……えっと、そっち方面?」 「そっち方面。僕ね、あんな体力バカ初めて相手した。まぁ、すごい気持ちいいからいいんだけどさ。僕はいいんだけど……弘樹くん、せっかく来年度から通う大学に合格してても、これじゃ高校卒業できなくなっちゃうから」 想像したくはないけれど、嫌でも想像してしまったオレは頬を赤く染めていく。どうやら弘樹は西野君と愛し合うことに集中し過ぎて、肝心なことができていないらしい。 お互いに、やるべきことはちゃんとやる。 それがオレと雪夜さんとの約束事で、オレたちはどれたけ愛し合いたくてもお互い夢のために頑張っているのに。 「なんか、雪夜さんの気持ちちょっとだけ分かった気がする……殺すって、こういうときに使う言葉なのかも」 「え、あ……青月、くん?」 「弘樹は一緒に帰らないの?何やってんの、バカなの?バカなのは知ってるけど、そこまでバカだとオレも怒るよ」 いつも毒舌をかます西野君が、オレの発言にひいているのが分かる。でも、一度切れてしまった堪忍袋の緒ってものは、もう元には戻せない。 「弘樹くんは僕たちとカリキュラム違うから、あと一限残ってるんだ。それが終わったら家まで来る予定になってるんだけど……青月くん、聞いてる?」 「ごめん、聞いてない」 普段なら、寒さを感じるはずの冬の日。 オレは、怒るとその寒さを忘れてしまうくらいに熱くなれることを知った。

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