738 / 952
第738話
「弘樹は雪夜さんに憧れて、雪夜さんが通ってる大学目指したんでしょ?スポーツ推薦入試で受験して、もう合格決まってるからって高校卒業しなきゃなんの意味もないじゃん」
「……ハイ、すみません」
オレが西野君の家に来て、1時間が過ぎようとしていたとき。何食わぬ顔をして西野君に会いに来た弘樹は、オレがここにいることに戸惑っていた。
でも、そんな戸惑いなんてオレには関係ないから。広い広いリビングの真ん中、ソファーがある位置の前で弘樹を正座させたオレは、ソファーに腰掛け困惑する西野君に微笑みつつ、弘樹を見下ろして。
「だったら、勉強くらいしなさい。弘樹が憧れる雪夜さんは、コーチの仕事だって手を抜かないし、大学のことだってちゃんとしてる。そんな忙しい毎日の中で、オレのことを可愛がってくれる」
惚気かよって思われそうだけど、でも間違ったことは言っていない。弘樹が憧れている人は、自分のやるべきことをしつつも、オレを大事にしてくれるから。
なんだか今の弘樹の行動は、雪夜さんが馬鹿にされているみたいで物凄く腹立たしい。それに、オレはもう何ヶ月もえっちなんてしていないから。当たり散らすのには丁度いい相手を見つけたオレは、ここぞとばかりに弘樹を攻めていく。
「セイちゃん、だからゴメンって」
「オレに謝って、どうするの?西野君がどれだけ弘樹のことを思ってくれてるのか、一番分かってあげなきゃいけないのは弘樹なんだよ」
「青月くん……」
「身体で繋がったってただ気持ちいいだけだったら、西野君の相手は弘樹じゃなくてもいいじゃん」
オレの言葉に、絶句した二人。
だけど、オレは構わず話を進めていく。
「でも、二人は違うでしょ?恋人同士だから、思い合って触れたくなるんでしょ?そこに気持ちがちゃんとあるから、だからひとつになりたいって、そう思えるんじゃないの?」
「そりゃ、もちろんそうだけどさ」
オレと雪夜さんのような関係を築いてほしいわけじゃないし、二人には二人の付き合い方があるのはオレだって分かってる。でも、弘樹には西野君の思いを分かってほしい。
バカな弘樹が大学受験に合格できたのは、スポーツ推薦枠を勝ち取れた運の良さだけで。それに浮かれて、ろくに勉強せずに欲に溺れ続けられたら、西野君が弘樹を心配してオレに助けを求めるのは当然だと思った。
雪夜さんと同じ大学に通えるとしても、高校のテストですら追試ばかりの弘樹が、この先やっていけるわけがない。
こんこんと続く、お説教。
喋っているより一刻も早く勉強させた方がいいのは、オレも分かっているけれど。オレが付き合って、今日だけ弘樹が勉強に励んでもそれはまったく意味を持たないから。
「相手のことを一番に思ってあげなきゃ、考えてあげなきゃ……西野君は弘樹のために言ってくれてるのに、弘樹はどうして分からないの?」
「分かってる、つもりだった。でも、ずっと不安だった日々から解放されたし、テスト勉強は一夜付でもなんとかなるかなって……本当に、ごめんなさい」
ともだちにシェアしよう!

