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第739話
「弘樹の頭じゃ一夜漬けだとなんともならないから、西野君は今のうちから勉強しようって言ってくれてるの。そのどうしようもない頭をどうにかしないと、弘樹はそのうち西野君に捨てられると思うよ?」
「……セイ、もう許して」
「好きだからって、何をしても許されるわけじゃない。オレだって本当は雪夜さんと一緒にいたいし、色んなこと我慢して頑張ってるんだから」
大好きな人とえっちなことができなくても、人間は死なない。それはオレが身を以て証明しているし、弘樹と西野君は勉強さえすればその後は色々できちゃうんだから、オレよりイージーモードじゃんかって。
心の中でそんなことを叫びながら、オレと西野君に土下座する弘樹を見ていたオレだったけれど。
「……青月くん、ありがとう。もう充分だよ……ねぇ、弘樹くん。せっかくだからさ、弘樹くんの正直な気持ち聞かせてくれないかな?」
親友の恋人の西野君は、弘樹に優しく問い掛けていく。その声に頭を上げた弘樹は、心底申し訳なさそうな表情で口を開いて。
「悠希、本当にごめんな。俺たちお互い志望校合格して、この先のこと考えたら悠希やセイの言うことの方が正しいって、分かってるつもりだった」
希望する学部がある私立大学に、AO入試で受験した西野君にもすでに合格通知が届いている。西野君は弘樹と違い、自分の学力に合った偏差値の大学を受験したから、そこまで入試も苦労しなかったみたいだけど。
「高校卒業したら、毎日会えなくなんじゃん。俺ら大学別だしさ、今みたいに好きな時に好きなだけってわけにもいかなくなるから」
「だから今のうちにって、弘樹くんはそう思ってたんだね。僕も弘樹くんと同じ気持ちだよ?でも、それだったら追試なくテストを終えて、その後たっぷりある時間で、ゆっくり……ってのじゃ、だめ?」
「……駄目じゃない、むしろイイ」
見つめ合って、微笑む二人。
弘樹と西野君の周りだけ、時が止まっているように思える。そんな二人の姿を眺め、オレはいらないお節介をやいちゃったなぁって思っていたときだった。
「セイ、ごめんな。それと、俺と悠希のために本気で怒ってくれてありがとう。俺、テスト勉強頑張るから……あの人がセイを大事にしてるみたいに、俺も悠希のこと愛してやりたいし」
「じゃあ、勉強しよっか」
「セイちゃん、そこはスパルタなんだな」
「当たり前でしょ?オレは、西野君に一緒に勉強しようって誘われてここにいるんだから。二人の邪魔していいって、西野君から許可ももらってるもん」
西野君のことを思うと、このまま二人きりにしてあげたい。オレが居たらできない話とか、本当はいっぱいあると思うから……でも、オレはちゃんと二人の邪魔しなきゃ。
本気で怒って、本気で笑って。
このテストが終わる頃には雪夜さんが帰ってきてくれるってことを励みにしながら、オレは西野君と二人で、弘樹の学力向上を目指しこのテストを乗り切ろうと決めたのだった。
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