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第750話
目覚めるのが、少しだけ怖かったって。
そうオレが雪夜さんに告げたら、雪夜さんはどんな顔をするんだろう。
1日早かった、雪夜さんの帰宅。
やっと会えたことも、キスをして長い時間抱き合ったことも……そのすべては、夢だったんじゃないかって。本当はまだ、オレの隣に雪夜さんはいないんじゃないかって。
目覚める寸前の微睡んだ意識の中で、オレには一瞬そんな考えが過ぎったけれど。真っ白なレースのカーテンが揺れ、外から入ってくる優しい風がオレの頬を撫でていく。
そして。
「はよ、星くん」
ふんわり香るブルーベリーの匂いとともに、ベッドに腰掛けオレを見る雪夜さんからの甘い甘い笑顔と、朝の挨拶がやってきたから。
「……雪夜さんだぁ」
昨日が、夢じゃなかったんだって。
やっと実感出来たオレは、夢のような幸せいっぱいの朝……じゃなくて、たぶんお昼過ぎくらいのときを迎えていた。
「すげぇー幸せそうに笑ってっけど、お前声枯れてるし身体ヤバイだろ。ごめんな、星に負担かけるような抱き方しちまって」
吸っていた煙草の火を消して、雪夜さんは薄手のパーカーの袖を引っ張ると身を縮め、くしゃくしゃとオレの頭を撫でてくれる。
寒がりさんなのは変わらないらしい雪夜さんの仕草にキュンとしつつ、寒いなら窓閉めればいいのにってちょっとだけ思ったけれど。
オレの隣に潜り込み、ブランケットに包まっていたオレを雪夜さんは抱き締めてくれるから。この温もりを感じられるなら寒い方がいいのかなって思ったオレは、雪夜さんの胸にすりすりと頬を寄せていく。
ドロドロだったはずの身体もシーツも、オレの知らぬ間に綺麗になっているけれど。半年ぶりに感じる身体の痛みは、オレが思っていた以上の鈍痛で。足腰だけじゃなく、背中の方まで筋肉痛みたいになっていて、正直言えばすごく辛い。
でも、やっぱり。
オレにはそんなこと、どうでもいいんだ。
「とっても気持ち良かったし、すっごく幸せだから大丈夫です。それに、オレの傍に雪夜さんがいてくれて本当に嬉しいから」
ずっと待っていた大きくて安らげる雪夜さんの腕の中は、まるで温かな毛布みたいで。ふわふわなステラも温かいけれど、オレはこうやって力強く抱き締めてくれる雪夜さんに包み込まれているときが好きだなって思った。
「俺も、やっとこうしてお前と一緒に過ごせんだなって思うと嬉しいし、安心する。今日はこのままゆっくり話でもするか。色んなこと聞きてぇーし、星くんに聞いてほしいこともいっぱいあんだよ」
「オレも雪夜さんと、たくさんお話したいです。あ、でも……ずっとこのままだったら、お腹空いちゃいますよ?」
「トイレにも行けねぇーし、煙草も吸えねぇーじゃん……って、ちげぇーっつーの。お前はホント可愛いヤツだな、もう既に腹減ってんだろ?」
「だって、いっぱいしたからお腹すいたんだもん。雪夜さんが作ってくれるご飯食べたいし、雪夜さんが料理してる姿も見たいから……だめ?」
オレのカラダは悲鳴を上げそうなほど満たされているのに、それはどうやら性欲と睡眠欲だけみたいで。人間の三大欲求の一つ、肝心の食欲がまだ満たされていないオレは、三つのところ欲求のすべてを雪夜さんで満たそうとしていた。
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