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第753話

ふわりと重ねられた手と、こつんと触れ合ったおでこ。とても幸せそうに笑う雪夜さんの顔が目の前にあって、オレは嬉しくて嬉しくて堪らなかった。 「ありがとう、星くん」 オレの手から雪夜さんの手へと渡ったジッポは、オレが持っている時よりもずっと輝いて見える。慣れ親しんだジッポを手に持ち、カシャンっとフタを開け火を点けた雪夜さんは、オレの隣で煙草を咥えて。 流し目でオレを見つつ、ゆっくりと最初の煙を吸い込んだ雪夜さんは、物凄く美味しそうに食後の一服を味わっている。オレはそんな雪夜さんの姿を眺め、また一つ小さな幸せを感じていた。 雪夜さんの首筋にくっきりについているオレの歯型は、大好きな雪夜さんがオレの元に戻ってきてくれた証拠で。今までずっと綺麗だった灰皿に、煙草の灰と吸殻が加わっていくことも。それもきっと、雪夜さんがこの部屋に帰ってきてくれた証拠だから。 オレは雪夜さんの肩に凭れて、香ってくるブルーベリーの甘いに匂いに安らぎを感じつつ、雪夜さんに問い掛ける。 「雪夜さんは、研修で三カ国巡ってきたんですよね?もう一度行きたいなって、思った国とかありましたか?」 「もう一度行きたいってか、今度来るならお前と一緒に来てぇーなとはどの国でもすげぇー思った。なんかさ、向こうで食事してても、星とならもっと楽しめんだろうなって……んなことばっか、ずっと考えてた」 オレが高校二年生のとき。 修学旅行に行って思ったことも、今雪夜さんが言ってくれたようなことだった。あのときは二泊三日だったけれど、雪夜さんは半年間ずっとオレのことを思っていてくれていたんだって実感できて。 「いつか、一緒に行けたらいいですね。オレも雪夜さんがいてくれたら、どれたけいいだろうって……そう思うことが、本当にたくさんありました」 「星くん、あのクズ野郎に会ったりしたんだもんな。ランは?あのオカマ野郎も、少しはお前の役に立ってくれたか?」 お互いに知っているようで知らないことが気になり始めたオレたちは、静かな部屋で言葉を紡ぐ。 「役に立った、なんてもんじゃないです。オレ、ランさんにとってもお世話になっちゃいました」 「んじゃ、明日は買い物行くついでにランのとこにでも行くか。アイツにも土産渡さなきゃなんねぇーし、お前はこれからあのオカマに世話になるしな」 雪夜さんには離れているあいだに、卒業したらオレはランさんのお店に勤めることになりそうだって。文字だけのやり取りのなかで、一応報告はしておいたけれど。 詳しい話はなかなかできなくて、雪夜さんからの返事はお前がやってみたいと思うならいいと思うってものだったから。 悩みに悩んだ、就職先だけれど。 雪夜さんが研修に行っていたから、オレはランさんとああして話ができたのかもしれないって。今になって、そんなふうに考えることができるのは、オレの傍に雪夜さんがいてくれるからなんだと思う。 「ランさんも、雪夜さんのことずーっと待ってますよ。雪夜さんは色んな人から愛されてるんだなぁって、ランさんと話して実感しましたもん」

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