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第754話

「アイツらに愛されてんのかどうかは知らねぇーけど、それなりに感謝はしてるつもり……っつっても、俺の周りのヤツらって喋りだしたらうっせぇーのばっかだからなぁ」 そう呟き、煙草の火を消して。 雪夜さんはソファーに腰掛けたまま、両腕を組んでうーんっと伸びをする。オレはそんな雪夜さんの膝の上に転がり、安心できるオレだけの枕に後頭部を沈めて雪夜さんを見上げた。 「兄ちゃんや優さんも、きっと雪夜さんに会いたがってると思います。でも……もうちょっとだけ、オレは雪夜さんを独り占めしていたい」 「嬉しいこと言ってくれんじゃん、俺もお前と同じ気持ちだ。星が傍にいんなら、他になにもいらねぇーくらい俺はお前を愛してんの」 「オレも、オレも雪夜さんと一緒です。だけど、それだけじゃだめなんですよね……お互いにその気持ちに甘えるだけじゃ、それは支えとは言えないから」 雪夜さんと離れて分かった、オレたちの付き合い方。兄ちゃんや優さん、弘樹や西野君。世の中にはいっぱい恋仲の人がいると思うけれど、オレと雪夜さんはお互いに支え合って生きていきたいんだと思うから。 ただ甘えるだけじゃなくて、時には厳しい現実に立ち向かっていかなきゃならないんだって。その最初の一歩が、半年間の研修だったのかもしれないって、オレはそう思うんだ。 ずっとこのまま、この部屋で雪夜さんと過ごすことなんてできないけれど。 雪夜さんと会えないあいだに感じた色んなことを思い出していくうちに、オレは健史君が言っていた永遠の尊さや、弘樹が語っていた今後の不安感などに少しずつ共感していって。 「俺は、お前に支えられてる。星のこの手に、どれだけ救われてきたか分かんねぇーよ。お前が此処で待っててくれたから、俺は向こうでも頑張れたんだ」 オレの手を優しく握り、そう言って微笑んだ雪夜さんは話を続けていく。 「ホームシックになりかけてたこともあったし、すげぇー自暴自棄になった日もあった。同じ研修生の野郎はクソだし、上司は酒に酔って潰れちまうし」 「そんなことがあったんですね、お疲れさまでした。でも、その研修生の方とは案外仲良くなれたんじゃないですか?」 「……なんで、分かった?」 研修中の雪夜さんの行動は、連絡を取り合っていても詳しい内容は分からなかったけれど。雪夜さんの話を聞いて、オレが思ったことを雪夜さんに伝えると、雪夜さんはとても驚いた顔をしていた。 なんでって訊かれると、オレもよく分からない。でも、そうやって答えるってことは、オレの考えは当たっているんだろうから。 「えっと、なんとなくです。雪夜さんがクズとかクソとかどうでもいいとかって言う相手ほど、雪夜さんが親しく思ってる相手だなって感じるだけですよ」 「そういうもんか?」 「そうですよ?本当にどうでもよくて興味ない人が相手だったら、雪夜さんはたぶんその相手の話をオレにしないと思います」 他人はどうでもいいって思ってる雪夜さんだけど、雪夜さんは優しいから。なんだかんだ言いつつ、その研修生の人とも仲良くなったんじゃないかなって思ったオレは、無言の雪夜さんにくしゃりと頭を撫でられていた。

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