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第757話

「竜崎さん虐めて楽しんでるとこわりぃーんだけどさ、実家に車おいといてくれりゃ明日勝手に取りに行くから。馬と華に土産渡さなきゃなんねぇーし、そっちのがお互い都合よくねぇーか?」 飛鳥の思いつきで決めたとこなのか、元々なにか企んでいたのかは不明だが。スマホ越しの会話の雰囲気を察する限り、兄貴は竜崎さんに運転させる気なんてないんだろうと思うし、俺を使って竜崎さんで遊びたかっただけなんじゃないかと捉えた俺は、そう兄貴に問いかけた。 明日はランの店に行こうって星くんとも約束しているし、ランのとこから実家までの距離なら一人で歩いて行っても問題はない。俺が車を取りに行っている間、星はランに預ければ安心だし……行きは電車を使うとしても、帰りは車で帰ってこられるから。 俺たち同様、せっかく想い人に会えた竜崎さんの邪魔をしたくはなくて。気を利かせて問い掛けた俺に、飛鳥からの返答はこうだった。 『んじゃ、そうして。明日ならまーちゃんが家にいっから、鍵はまーちゃんに預けとくわ。隼、そこ座っとけ……動いたらドライブ行かずに犯すぞ、バカ』 最後の方は、ドライヤーの音に掻き消されよく聴こえないまま通話が切れたけど。 ……なんとまぁ、甘い声を出すようになったもんだな、クズ野郎。 一方的に切られたスマホの向こう側で、俺の上司は俺の兄貴に馬鹿呼ばわりされているんだと思うと複雑な気分になるが。兄貴が竜崎さんのことを、可愛がっているのがよく分かるやり取りだったとは思う。 ありゃ、どっちも惚れてんな……ってか、飛鳥が人ひとりに入れ込むなんて世の中何が起きるか分かんねぇーわ。 なんて。 一瞬、思ってみたりもしたけれど。 男同士の付き合いが簡単なもんじゃないということを、俺はそれなりに知っているから。口を挟みたくない友人二人の付き合いに、口出ししなきゃならなくなる日が来ることを考えると、先が思いやられてならなかった。 どんな理由があるのだろう。 依存し合った二人が、繋いだ手を離さなければならない理由。こんなにも愛おしいと想う相手を、傍にいてやりたいと願う相手を……俺はどのような理由があれば、星と別れる選択をするのだろうか。 考えても、考えても。 俺には、その答えが見つからない。 きっと、それは星も同じなんじゃないかと思う。だからこそ、光と優のことが心配で。俺の仔猫さんはこの小さなカラダで、大きな不安を抱えているに違いないんだ。 王子と執事のことは、俺が研修から帰ってきたらどうにかすると。星と離れる前に、そう言った言葉を星くんは信じているんだろうと思う。大好きな兄貴の異変に気づかないほど、星はもう子供じゃない。 光の言動が気になっていても、俺と同じように口を挟まぬよう、黙って見守ってきたはずの星。コイツのためにも、俺は優に会って話をしなきゃならなくて。 明日のこと、仕事のこと、大学のこと。 竜崎さんから与えてもらった一週間の休みのうちに、俺がやるべきことは星と過ごすことだけじゃないってのを思い知ってしまった俺は、すやすやと眠る仔猫の頬にキスを落とし、今後の予定を立てるのに頭を悩ませていた。

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