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第758話

「雪夜さんと一緒に電車に乗るって、新鮮ですね。なんかオレ、ドキドキしちゃいます」 「移動は車がほとんどだからな、たまにはいいだろ……っつっても、帰りは車だけど」 星と二人で一日中のんびり過ごした土曜日が終わり、やってきた日曜日。昨日は眠り続けていた仔猫さんの体力も回復し、予定通りにランの店へ行くため、俺たちは電車に揺られている。 「雪夜さんが車を取りに行ってるあいだ、オレはランさんのお店で待たせてもらえばいいんですよね?」 「ごめんな、星くん。本当はお前も連れて行ければいいんだけど、馬の機嫌がいいかどうか分かんねぇーからさ。アイツ機嫌わりぃーと、誰彼構わず吠えるから危ねぇーんだよ」 「遊馬さんって吠えるんですか?ヒヒィーンって?」 昼前の車内はそこまで混雑しておらず、二人並んで座席に腰掛けている俺と星くんだが。真っ黒な大きな瞳で俺を見てそう問い掛けてくる星の言葉に、俺は妙に考えてしまう。 ……コレはボケてんのか、マジなのか、どっちだ。いや、どっちでもいいけど。ヒヒィーンって可愛い過ぎじゃねぇーの、星くん。 「んなふうに可愛く吠える兄貴なら、俺こんな苦労してねぇーって。ランには昨日のうちに連絡入れてあっから、お前がいつも通りいい子にしてたらランがデザートおまけするっつってたぞ」 可愛いヤツには荒い馬の話をするより、甘いおやつの話の方が似合う。そう思った俺は、ボケかマジか分からない星の問いをやんわりと返したが。 「デザート楽しみです。オレね、雪夜さんがいないあいだにランさんから色んなこと教えてもらったんですよ。だから、きっと今日のデザートはチョコレートケーキだと思います」 へへっと笑ってそう言った星の頭の中は、一体どうなっているんだろう。馬の鳴き声からデザートの予想まで、俺には理解できない思考が星くんの脳内でぐるぐる回っているんだろうと思うと、コイツの計り知れない可愛らしさを感じる。 俺が海外にいた間に、すっかり親しくなった様子の星とラン。本当に楽しみにしているのが見て取れる星くんの表情ではあるが、その瞳は幼さを感じさせないどこか真剣なもので。 単純に自分が食いたいケーキの種類を言ったわけじゃなさそうな星に、俺はどんな理由があるのか尋ねてみることにした。 「チョコレートケーキか、なんで星くんはそう思うんだ?」 「えっと、この前ランさんのところに行った時、そろそろクリスマスケーキの試作をしなきゃいけないって話をしてたから。その時のランさんは休憩中の時間を利用して、パンテリングしてたんです」 「クリスマスケーキにチョコレートの調温、時期的に試作品のチョコレートケーキを出してくんじゃねぇーかって予想か。それは結構な高確率かもしんねぇーわ、ランなら有り得る」 「やった、雪夜さんも納得してくれたぁ……あ、でも。これでハズレてたら残念ですね、ランさん高笑いしそう」 少しずつ、確実に。 成長を遂げる仔猫さんの意見は俺が思っていたよりも、的を得たものだった。 そして。 そうこう話しているうちに、俺たちを乗せた電車は下車駅へと辿り着く。

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