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第759話

最寄り駅から少し歩いて。 ランの店の扉を開けた俺は、久しぶりに訪れた店の空気感に安堵する。店内は案の定、ランチタイムを楽しむ客で賑わっていたため、先に予約をしておいた個室に案内されたのはいいが。 「雪夜、お帰りなさい。二人とも、本当によく頑張ったわね……やだわぁ、歳をとると涙腺が弱くなっちゃって」 クソが付くほど忙しくなる時間帯が、もうすぐやってくるというのに。このオカマにはそんなこと関係ないのか、俺と星を交互に見つめるとボロボロと泣き出してしまった。 「俺たちのことは後回しで構わねぇーから、先に仕事しろ。礼もちゃんと後で言ってやっから、そのブサイクな泣き顔どうにかしろよな」 「ちょっとッ!久しぶりの再会だっていうのに、ブサイクってなによっ!?」 「ランさん、雪夜さんにはオレから注意しとくので。とりあえず、仕事に専念してください」 二人が揃ってお店に来てくれるのが待ち遠しいからと、ランは店が混雑する時間帯にも関わらず、この時間に店に来るようにと昨日連絡を入れた時に言ってきたから。 それじゃなくても、ランには半年間星くんの面倒をみてもらい、今日は俺の都合で星を店に残して行かなきゃならないのに。ランに負担をかけるんじゃないかと、俺は心配しながら此処にいるんだが。 「歳をとれば要領もよくなるもんなのよ、心配してくれてありがとう星ちゃん。それじゃあ、早速だけど……ここからは星ちゃんにお任せするわね、お互い落ち着いた頃にゆっくり話しましょう。ね、雪夜」 「最初からそうしろ、オカマ」 「雪夜さんはそこに座っててください。ランさん、任せるってそういうことですよね?」 半年前にはなかったランと星くんとのやり取りに、俺だけがついていけない。それが少しだけ寂しく思うけれど、星の問い掛けに微笑み、黙って頷いたランは静かに個室を後にして。 着ていたコートをハンガーに掛け、ランの背中を追いかけるように部屋から出ていってしまった星くんは、俺の知らない男の子へと成長を遂げ部屋へと戻ってきたんだ。 「雪夜さん、どーぞ」 店のトレイを手に持ち、その上に乗せられた二人分のペリエとお絞りをテーブルに置いていく星くん。私服の白シャツに、黒のギャルソンエプロンを身に纏った星は、立派なウェイター姿で俺の前に現れた。 「どうなってんだよ、コレ……」 「オレ、ランさんに色々教えてもらったって言ったでしょ?雪夜さんへのサプライズです。オレね、まだちょっとだけだけど、たまにこうしてランさんのお手伝いさせてもらってるんですよ」 「だからこの時間に来ても、問題なかったってワケ?」 「そういうことです、びっくりしました?」 「当たり前だ、驚かねぇー方がどうかしてるだろ。すげぇー似合ってんじゃん……ってか、マジでやべぇーな」 得意気に笑う星くんは、トレイに残っていた灰皿をテーブルの上に置くと、俺の隣に腰掛ける。 知らない間に大人になって、その成長をこんな形でお披露目してくれるなんて。ランじゃねぇーけど、嬉しさを通り越して俺も泣きそうだ。

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