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第760話
目頭が熱くなって、でもそれを堪え微笑んだ俺に、星くんはこれまでランとどのような話をしていたのかを教えてくれた。
俺がいない寂しさを強さに変え、星は星なりに自分の夢を形にしようと頑張っていたこと。その姿をこうして俺に見せたくて、ランの店で手伝いを始めたことを俺に隠していたこと。
一歩ずつ、大きくはない歩幅でも。
夢に向かい確実に前に進み出した星は、俺の隣でとても嬉しそうに笑っていた。
星が持っている癒しの空気と、清楚な服装が織り成す絶妙なバランスは、凛としたウェイター姿を俺に見せつける。
これから先、俺だけの星くんがこの姿で店に立つことになるのかと思うと、コイツに言い寄ってくる人間が増えることを俺は確信して。
正直、この星の姿は誰にも見せたくないと。
そう思っても、こればかりはどうにもならないとも感じた俺は、星に気づかれぬよう小さな溜め息を漏らした。
白と黒。
星にはこの二つの色が、本当に良く似合う。
透き通るような肌は白く、艷めく髪や瞳は黒い。天使のように愛らしい時もあれば、小悪魔のように心を揺さぶる時もある。星そのものを表わすような色を纏い、自分らしく働ける場所がきっとランの店なんだろうと思った。
まだ手伝い始めたのはちょっとだけだからと言っていた星だが、その動きは結構様になっていて。俺たち二人は客として来たはずなのに、星が店員で俺が客っていう、なんとも不思議な状況に変わっていった。
ランチメニューはランのお任せプレートだったが、落ち着こうにも落ち着けない異様な気分で俺は星と二人で食事を済ませたけれど。
……どんなプレイだ、これ。
そう思ってしまうのは、個室にいるからなのかもしれないが。俺の趣味ドストライクな格好の星くんは、今の俺に死ねと言っているようなものだから。
サプライズにのほほんと喜んでいる場合じゃないことを思い出した俺は、このまま星くんを連れ帰り犯したい気持ちを堪えて一旦店を出ていった。
「……あー、あれは心臓に悪い」
星をランに預けて、実家までトボトボと歩いている最中に出てきた独り言。
今から兄妹に土産を渡し、車だって引き取らなきゃならないというのに。俺の心は星くんで満たされ、浮かされ続けていく。
寒さも増した12月。
着込んだコートに両手を突っ込み、肘にぶら下げた土産の重さを感じながら辿り着いた実家の前。
相変わらず家だけはデカいなんて思いつつ、俺は実家のインターホンを押した。
「……雪だ」
ガチャリと音を立て開いた玄関の扉から出てきた遊馬は、そうひと言呟いて俺を見るけれど。
「そのイントネーションだと意味変わってくっからな、車バカ。雪なんて降ってねぇーよってか、おかえりくらい言えや」
「お前、鳥に似てんな。知ってたけど、若い頃の兄貴にそっくり……あのアホウドリも老けたんだな、そりゃ俺も老いるワケだぜ」
これが海外から戻ってきた弟に言う言葉だとは思えないが、自由人を貫く遊馬に出迎えられた俺は、久しぶりに実家の玄関をまたぐことができた。
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