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第763話

【星side】 雪夜さんが車を取りに行っているあいだに、ランチタイムは終了して。オレと雪夜さんが使っていた個室の清掃を終え、カウンター席とテーブル席へ移動してきたオレは、フロアの床をモップで拭きあげている。 「働き者の星ちゃんが来てくれて、本当に助かるわ。雪夜へのサプライズ、大成功だったわね」 「ランさんのお手伝いしてたこと、雪夜さんにはずっと隠してたけど……でもこれで、オレの罪悪感もなくなりました。ランさん、ありがとうございます」 オレの時間がある時で構わないからと、ランさんのご好意で。夏休みが明けたくらいから、オレは少しずつこのお店に関わらせてもらうようになっていた。 アルバイト経験もなければ、接客の仕方すら分からないオレに、ランさんは一つずつをとても丁寧に指導してくれて。 仕事は仕事だから。 働いた分のお給金は出すって、ランさんは言ってくれたけれど。オレはそれを丁重にお断りし、代わりに雪夜さんにこのことを言わないでほしいとお願いした。 シフトがあるわけじゃないし、決まった時間にしっかりと働いているわけでもない。オレの時間がある時にお店に来て、ランさんの手が空いている時に細かな仕事を教えてもらう。 それは、努力と呼べる程のものじゃないのかもしれない。 でも、オレはオレで頑張ってるんだって姿を、雪夜さんに見てほしいって思ったから。今日は雪夜さんと一緒にここまで来るのに、内心とってもドキドキしていたオレだったけれど。 雪夜さんは、すごくすごく驚いてくれた後。 オレをぎゅーって力いっぱい抱き締めて、沢山よしよしって頭を撫でてくれたんだ。 隠しごとをしていたことをオレが素直に謝った時も、雪夜さんは怒ることなく優しさたっぷりの笑顔を見せてくれて。時折、なぜか考え深い顔をしながら、雪夜さんはオレの姿をじーっと見つめていた。 「雪夜が実家から戻ってきたら、私たちもゆっくりしましょう?頑張ってくれた星ちゃんにはデザートもあるから、今度はちゃんと雪夜と並んで幸せな時間を私にわけてほしいの」 そう言って微笑んでくれたランさんは、自分が飲む分のアイスコーヒーをグラスに注いでいく。 ランさんの手伝いを始めてから、オレはランさんが全く休憩することなく仕事漬けの生活を送っていることを知った。 一体ランさんはいつ寝ているんだろうかと思うくらい、オレの憧れの人は仕事以外のことをしない。唯一の休憩は、立ちっぱなしの状態で飲む、このアイスコーヒーだけで。 そんなランさんの姿を見ていると、オレも早くランさんの力になれるような人間になりたいって強く思うんだ。 色んなことを考えながら、ランさんから与えられた一通りの仕事を終えて。オレが清掃道具を片付け、しっかり手を洗い終えた頃。 ゆっくりと開いたお店の扉は、雪夜さんだけを招き入れる。 「……ラン、俺のは?」 「星ちゃんなら、裏にいるはずよ。丁度今頼んだ仕事が終わったから、すぐに戻ってくるわ……って、そんな顔しないの。取って食ったりしていないから、安心なさい」 聴こえてきた会話に、オレは恥ずかしくなってしまうけれど。恥ずかしげもなくランさんに問い掛けた雪夜さんの言葉に、オレは嬉しさを感じて頬を染めていた。

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