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第770話

【雪夜side】 ランの店から星を連れて買い物へ行き、その後は自宅に戻ってのんびりとした週末を過ごして。やって来た月曜日の朝に星を学校へと送り届けた俺は、その足で大学へ向かった。 いつまでも星くんを抱いて寝ていたいところではあるが、そうも言っていられない。半年いなかった分を埋めるための補習があったり、年が明けたら卒論の提出が待っていたりとやることは山積みだ。 卒論についてはほとんど終わっているから、あとは最終チェックさえすれば提出は出来るけれど。数少ない補習を受けることよりも、星には言えなかった王子と執事の関係の修復をしなきゃならない俺は、講義を聞きつつ頭を抱えている。 今日の19時に、優と飲み屋で待ち合わせ。 俺が帰ってきたら話を聞いてやると言ったはいいが、朝っぱら気が重くて仕方がない。そんな俺の心を少しだけ軽くする男は、俺の隣でお休み中で。 「ったく……バカか、お前は」 俺の周りにいるバカの中で、講義中に居眠りぶっこくバカといったらソイツは一人しかいない。追い込みが掛かるこの時期に、こうして呑気に寝ていられるほど、コイツの頭は優れてないから。 「起きろ、康介ッ」 「ッ!!」 レースアップブーツの先で思い切り康介の脛を蹴り上げ、夢の中にいた康介の意識を無理矢理呼び戻した俺は、深い溜め息を吐く。 俺がいない半年の間に、少しは勉強出来るようになっているのかと思ったが……バカは、変わらずバカのまま。痛さのあまり悶絶して声が出ないらしい康介は、教本に顔を埋めて歯を食いしばり俺を睨みつけてきて。 「はよ、こーすけクン?」 甘く囁きかけるように小声で呟いた後、俺は康介の目尻に溜まる涙を親指で拭ってやり、こう続けていく。 「なーんも変わってねぇーのな、バーカ」 「うぅ……白石ぃー、お前どんだけイケメンなんだよ。寝起きでお前のその顔見んの、すげぇ久しぶりだ……俺、なんか幸せ」 「幸せ感じてる暇なんてねぇーだろ、お前マジで留年すんぞ。おら、起きろや」 「いひぇよっ、いてぇって!」 ヘラヘラと笑いつつ、幸せだと語る康介がキモくて。俺は康介の頬を摘むとぎゅっと力強く捻り、痛いと吠える康介の姿を鼻で笑っていた。 そうこうしているうちに午前の講義は終了し、未だに眠そうな康介を連れ俺が訪れた場所は大学内の喫煙所。 「白石、俺にも煙草ちょーだい」 「ん……やるけど、お前俺にコーヒー奢れ」 「なんでそうなんだよ、こんな可哀想な俺にそういうこと言ってくんの白石くらいだぜ?」 「自分で可哀想っつってんなら、世話ねぇーだろ。外寒ぃーから、ホットコーヒー飲みてぇーんだよ。ブラック買って、マジ頼むから」 「そこまで言うならしょうがねぇ、帰国祝いに奢ってやる……ってか、白石ってホント寒がりだよな。シャツ着てセーター着て、その上からコートまで着てんのに、お前ガチで震えてんじゃん、ウケる」 喫煙者は、どうしてこうも肩身が狭いのか。 寒さに震え、自販機の缶コーヒーの温かさで暖を取りながらも、煙草を咥える理由は人それぞれあるけれど。寒さ厳しい12月、煙草を持つ俺の手は冷えきっていた。

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