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第775話
隠されていた真実を知り、託された想いを素直に受け入れることなんて俺には出来ない。生気を失った男に、励ましの言葉すらかけてやれない自分が情けないけれど。
光と優がどれだけ俺たちの幸せを願ってくれたとしても、コイツらを犠牲にして得る幸せは幸福と呼べない。それは、きっと俺だけじゃなく星だって同じだと思うから。
「そんな幸せならいらねぇーよ。星は……アイツは、光が失った幸せを手にすることなんて絶対に望まない。お前らがそれでいいと思っていたとしても、俺も星もそれが幸せだとは思えねぇーから」
「それなら、お前はどうするつもりだ?」
自分の気持ちを押し殺して生きてきた光、そんな光のために身を捧げてきた優。愛し合っている二人の別れは、やはりどんな理由であれ、納得することは出来なくて。
「星が心底幸せそうに笑って俺の隣にいてくりゃ、そんだけで俺は充分なんだよ。お前らが別れるっつーなら好きにしろ……但し、俺は全力で止めっから」
二人が離れなきゃならない理由が俺と星にあるならば、それはもう光と優だけの問題じゃなくなる。
「俺でも出来なかったんだ、お前が光の心を動かすことなんざ、不可能だろう」
深い深い溜め息を吐き、答えが見つからないと言った顔をして俺を見る優は、薄まったウーロン茶を口にし、眉間に皺を寄せていた。
そして、俺はというと。
店に来てから二本目の煙草に火を点け、最初の一口をゆったりと吸い込み、吐き出してから優には見えてないらしい答えを導き出していく。
「……確かに、俺が直接光の心に触れることは出来ねぇーよ。でも、一人だけいんだろ。光の愛情をめいっぱい注がれて育ったヤツが……アイツは、誰よりも優しくて、誰よりも強い男だ」
そう言ってニヤリと微笑んだ俺の笑顔に、優は小さく息を呑んだ。
「お前まさか、星君にこのことを話す気でいるのか?愛する人をお前の手で、傷つけることになるんだぞ……星君だけの話じゃない、これは家族としての問題でもある」
「それが、なんだっつーんだ。アイツが描く幸せの先には、必ず俺がいんだよ。優、ついでにお前らもな」
「だからと言って壊していいものと悪いものがあることくらい、お前も分かっているだろう?良好な兄弟の関係を壊し、家族の絆をも壊しかねない……雪夜、お前一人でどうこうできる問題ではないんだ」
「そんでも、俺は星を信じってっから。アイツとなら、俺はどんなことがあっても乗り越えてみせる。俺がどれだけアイツを傷つけたとしても、泣かせたとしても、星の笑顔だけは絶対に壊したりしない」
優に言われなくとも、簡単な問題じゃないことくらい俺だって分かっている。最悪、俺が全てを失うことだって覚悟の上だ。俺が話してしまえば、星はこれから光のことで傷付くのも分かっている。だけどアイツは、傷付いて流した涙の数だけ強さに変える力を持っているから。
星が一人で抱え込めない分は、俺がなんとかすればいい。この壁を越えない限り、俺と星に未来はない。
「何のためにお前がいる、誰のために生きてんだよ。光が求めてんのは、いつだってお前だけだろ。守り抜いてやれるだけの力なんていらねぇーから、その口で、お前の声で、愛してるって言ってやれ」
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