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第782話
いたずらっ子のように笑って、二人で出した手の形はどちらもチョキだった。
なんだか、ゴール目前で振り出しに戻ってしまったスゴロクゲームみたいで。オレと兄ちゃんは顔を見合わせてクスクス笑い合うと、何して遊ぶかを話してお店を後にする。
そして、やってきた場所は。
「すごーい、ゲーセンとか久しぶりっ!」
やけにハイテンションな王子様と一緒に選んだ遊び場は、遊ぶために作られた施設のゲームセンターだ。
「懐かしいこの音ゲー、俺がやってた時よりバージョン上がってるし。ここのプリクラは相変わらず男子禁制なんだ、彼氏ならOKとか意味分かんないよね」
さっきまでいたカフェとは打って変わって、ざわざわと賑やかな店内ではしゃぐ兄ちゃんは、楽しそうに笑っている。
「あ、そうだ。せいに良いこと教えてあげる、そこにレーシングマシーンあるでしょ?アレね、ユキちゃんが優に唯一勝てなかったゲームなんだ」
キョロキョロと辺りを見回し、オレが兄ちゃんと一緒に遊べそうなゲームを探していると、兄ちゃんは一台のマシーンを指差してオレにそう言ってきて。
「え、そうなの?」
兄ちゃんたちも、ゲームセンターで遊んでいた時代があったんだなと。そんなことを思いながら尋ねたオレに、兄ちゃんはその時のことを詳しく話してくれる。
「そうそう。モナコは優の得意なコースだから、初戦はあのユキちゃんが惨敗したんだよ。結局五回目以降はユキちゃんの圧勝だったんだけどね、優に勝つまでやるって、あの時のユキはバカみたいに必死になってたなぁ」
本当にバカだよ、あの男って。
兄ちゃんは昔の雪夜さんを思い出している様子だったから、兄ちゃんの頭の中にはそれはそれは愉快な情景が浮かんでいるんだろうと思った。
だからオレは、つい聞いてしまう。
「兄ちゃんは、それ見て笑ってたんでしょ?」
優さんと雪夜さんが真剣勝負をしているあいだ、この王子様はきっと、二人の後ろに立って高みの見物をしていたに違いない。そうじゃなきゃ、兄ちゃんじゃないとさえ思ってしまうから。
「あんなにおかしなユキちゃんなんて、そうそうお目にかかれるもんじゃないからね。そりゃあ笑うよ、あれは誰が見ても笑うって」
案の定、オレの兄ちゃんは二人を見て高笑いしていたらしい。でもさすがに、雪夜さんを見て誰でも笑うってことはないと思うけれど。
兄ちゃんの説明を頼りに、オレはなんでもそつなくこなす雪夜さんが、優さんにゲームで負けて悔しがっている姿を想像してみることにした。
余裕だとか、負けないとか、最初はそう言って勝負してそうだなぁって。その後優さんにドヤ顔された雪夜さんは、舌打ちしてもう一回って頼むんだんだろうなぁって。
難しく考えなくても、あっさり浮かんだ雪夜さんの姿。兄ちゃんの言った意味とは少し違うけど、オレは確かに笑ってしまって。
「……可愛い」
思わず出てしまった言葉と、洩れるように溢れてきた微笑みは隠すことができないから。オレは制服の袖で口元を押さえ、兄ちゃんには気づかれないように、想像の中のとっても可愛らしい雪夜さんの姿を一人で楽しんでいた。
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