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第783話
「ちょっと遊び過ぎたね、もう外真っ暗だ」
「ちょっとどころじゃないと思うけど……でも、すっごく楽しかった。兄ちゃんが取ってくれたお菓子もいっぱいあるし、帰ったら夕飯の後に一緒に食べよう?」
「食後のデザートは、別腹ってやつ?食べても身にならないのは、20歳前までだったからなぁ……お兄ちゃんはそんなに若くないんですよ、せーいくん?」
夢中になって遊んだ時間は瞬く間に過ぎて、クレーンゲームの景品を抱えオレは兄ちゃんと並んで家路を歩いていく。
「じゃあ兄ちゃんの分もオレが食べちゃうから、兄ちゃんの目の前で美味しそうなこのお菓子オレが全部食べてあげる」
楽しかったデートの時間で、オレが兄ちゃんの手を引いて歩くことはなかったけれど。二人ではしゃいで、二人で笑って。幼い頃のように一緒になって過ごせたのは、本当に良かったなって思うから。
オレがちょっとした悪戯心に火を付けると、兄ちゃんは妖しい笑みを浮かべていて。
「それなら、今から没収するまでだねっ!」
「え……兄ちゃんっ!?ちょっと待って!」
オレが持っていたお菓子が入った紙袋を凄い早さで奪い取った兄ちゃんは、数十メートル先まで走っていくとそこで立ち止まり、肩を震わせ笑っていた。
それがなんだか無性に悔しくて、オレも負けじと追いかけると。兄ちゃんはまた更に先へと走り出してしまい、意味のない追いかけっこを数回繰り返してお互いの息が切れ始めた頃。
再び並んで歩き出したオレと兄ちゃんは、二人で冬の夜空を見上げながら、ゆっくりゆっくり歩みを進めていった。
「空、綺麗だね」
「こうして見てるとあの星が燃えてんのなんて信じらんないけど、あの輝きは命の証拠なんだなぁって思う」
「……命の、証拠?」
呟かれた言葉の意味を知りたくて。
オレが兄ちゃんに訊き返すと、兄ちゃんは家の裏の公園までオレを連れて行き、錆び付いたブランコに腰掛け詳しい話をしてくれた。
星は燃えているから光って見えるって。
それは水素等のガスの爆発によって起こるものだって、核融合とか、相対性理論とか、話を詰めていくと方程式が出来上がるんだって。
兄ちゃんの話は途中から、オレの良く分からない数式や化学と物理の違いについての話になってしまったけれど。
「つまりはね、燃えるのにもエネルギーが必要だってこと。それは産まれ持った恒星の大きさで、寿命が決まってるって言われているんだけど……俺たちが今見てる星は、生き物と一緒なんだよ」
悲鳴を上げるブランコの音を聞きながら、オレは兄ちゃんの話に耳を傾けて。
「そのエネルギーを使い果たしてしまったら、消えちゃうからってこと?」
「そういうこと。まぁ、太陽なんかは俺たちが生きてる間に、消えることはないみたいだけど。太陽の寿命は何十億年後の未来だって言われているし、そもそも太陽が消えたら人類も滅びるだろうしね」
「なんか話が壮大過ぎて分かんない……でも、分かんないけど分かった気がする」
「だからこそ人は、輝き続ける命の星に願いを込めたりするんじゃないかって……俺はね、そう思ってるの」
見上げた空は遠くて、いくら手を伸ばしても届かないけれど。隣で同じ星空を見つめる兄ちゃんとは少しだけ、心の距離が縮まったような気がした。
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