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第784話
みんな生きてる、みんな友達、なんて。
普段生活をしている時は、そんなことを考える暇がないけれど。人だけじゃなくて、この世の全てのものには命があると思うことが出来たなら、オレたちはもっと平和な世界で生きていけるのかもしれない。
「星、かぁ……」
そう呟き、真上を見上げても。
見えるのはお風呂場の天井と、小さな小さな水蒸気の粒だけで。兄ちゃんが言っていた星の意味を考え、オレはブクブクとお湯の中に沈んでいく。
なんだか、今日はとても疲れた。
兄ちゃんがはしゃぐ姿が見れてすっごく嬉しかったし、安心もした。二人で遊んで楽しかったけど……でもやっぱりオレ、疲れちゃった。
湯船に触れる、鼻の先。
オレの頭を優しく撫でる大きな手も、包み込むように抱きしめてくれる温かな体温も感じない今。疲労と寂しさを抱えた身体は、ただ酸素を求めるだけで。
「……ぷはぁッ」
水面から一気に抜け出し、オレは口を開けて呼吸する。揺れるお湯は肩まで下がり、何度か深呼吸を繰り返して。膝を抱えてバスタブの中で丸まったオレは、当然のことだけれど、これが肺呼吸なんだって思った。
吸って、吐いて、息をして。
産まれてから死ぬまでずっと、そうして人は生きている。もちろん、食事だって睡眠だって必要なんだけれど。
当たり前のことを当たり前だと思わないようにしたら、オレたち人間ってのは物凄く色んなことを手にしなければ生きてはいけないんだと実感した。
ぐるぐる回る思考は、たくさんのことを思い考えパンクしてしまいそうで。オレはヨロヨロしながらお風呂から上がると、頭からタオルを被り大きな声を出す。
「にぃーちゃーんっ、いいよぉー」
兄ちゃんがリビングにいても、自室にいても聞こえるくらいの声を上げ、順番待ちをしている兄ちゃんにオレはお風呂から上がった合図を送る。
「今行くー」
どうやらリビングで待っていたらしい兄ちゃんからの返事は、思いの外すぐに返ってきて。オレはのぼせた身体を拭き終えると、脱衣場になっている洗濯機の前で服を着た。
これが、雪夜さんのお家なら。
オレは自分の服を着ずに雪夜さんの服を着るし、雪夜さんはまず服を着てくれない。着たとしても下だけで、あの人は上半身裸のまま部屋の中を彷徨くから、目のやり場に困るんだよなって。
そんなどうでもいいことを思いつつ、オレはいつでも雪夜さんが恋しくて。結局、雪夜さんのことばかり考えているんだと、ちょっとだけ自分で自分に呆れながら、オレは兄ちゃんが来るのを待たずに自分の部屋へと移動する。
冷えきった廊下は火照った身体を冷ますのに丁度よく、でも歩くのには面倒で。
階段を登り、部屋へ行くまでの間。
オレは何度も、雪夜さんが抱っこしてオレを部屋まで連れて行ってくれたらいいのにって……とってもとっても、甘えたことを考えていた。
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